【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
(……早く終わらせなければ。このままでは、俺はこいつを殺してしまう。そうなるくらいならいっそ利き腕を……――いや、駄目だ。治療が必要なほどの傷を与えては、計画に差し支える)
リアムはこの雨を、アレクシスを殺すチャンスだと捉えていた。
だが、実際は逆だ。
雨は、アレクシスから理性を奪う。
怒りと悲しみの記憶が、アレクシスの生存本能を刺激する。
つまり、もし今アレクシスが『命の危機』を感じたら、本能に従いリアムを斬ってしまう可能性が高いということだ。
クロヴィスがアレクシスに『早く片を付けろ』と合図をしたのも、これが理由だった。
クロヴィスが危惧したのは、アレクシスが負けることではなく、リアムを斬ってしまうこと――。
(駄目だ、これ以上は待てん。こちらから仕掛けるしか――)
自身の中の理性が脅かされていることを悟ったアレクシスは、最早一刻の猶予もないと、反撃を決意する。
――だが、軸足を踏み込んだそのときだった。
ぬかるみに足を取られ、アレクシスはほんのわずかに体勢を崩す。
と同時に、その隙を狙ったリアムの剣が、アレクシス目掛けて振り下ろされ――。
(――しまッ……)
刹那、アレクシスの中で何かが途切れる音がした。
それは、命の危険を察知したアレクシスの脳が、理性より本能を優先した瞬間だった。
カッ、と全身の血がたぎり、アレクシスは反射的にリアムの剣をはじき返す。
そして気付けば、リアムの胴を真っ二つにせんほどの勢いで、剣を大きく振りかぶってしまっていた。