【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
(でも、そうか……。姉さんが、妊娠……)
とは言え、思うところは色々とある。
子供を身ごもったということは、当然その父親はアレクシスに違いなく――姉とアレクシスのそういう場面を嫌でも連想させる『妊娠』という事実は、シオンにとってとても複雑なことだった。
何より、第三皇子とはいえ皇族の血を引く子供が生まれると言うのは、政治的に非常にセンシティブな事柄だ。祖国にいる強欲な家族たちのこともひっくるめ、色々と心配は尽きない。
――けれど今はそんなことよりも、エリスが無事であったことの方が重要だ。
(そうだ。とにかく……姉さんが無事でよかった。それだけで十分だ)
その気持ちを伝えるべく、シオンはようやく顔を上げ、精一杯の笑顔をエリスに向ける。
突然の『妊娠』診断に戸惑いを隠せないエリスを安心させるべく、「おめでとう、姉さん」と、微笑みかける。
アレクシスが軍事演習で帝都を離れている間だけでも、弟の自分がエリスを守るのだという一心で。
「色々大変だと思うけど、僕、きっと姉さんの力になるから。悪阻のこととか……他にも色々。だから、僕を頼ってよ」
「――!」
するとエリスは、一度は驚きに目を見開いたものの、「ありがとう、シオン」と表情を和らげてくれた。
「正直、まだ全然実感が湧かなくて……。でも、あなたがいてくれて心強いわ」
「うん。安心してよ、姉さん。僕がついてるからね」