【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

 そういうわけで、二人は三日前からこうして単独行動をしている。

 日のあるうちに移動できるところまで移動し、空きのある宿を探して泊まる――つまり、部屋が狭かろうが相部屋だろうが文句など言ってられない状況なのであるが、そもそも、数多(あまた)の戦場を駆け抜けてきた二人にとって、部屋の狭さなど全く問題にはならなかった。

 ――とはいえ、いつものセドリックならば、間違いなくアレクシスに反対していたはず。

 突然の予定変更。にも関わらず、自分以外の護衛はなし。
 いくらアレクシスが強いとはいえ、あまりに不用心すぎる、と。

 それでも今回、セドリックがアレクシスに大人しく従った理由は、仕事関係なく、二人きりでゆっくり話すいい機会だと判断したからである。


 セドリックは、この狭い密室の扉側の椅子に腰掛けて、再びアレクシスに問いかけた。

「私が何も気付いていないとお思いでしたか?」

 するとアレクシスは、セドリックに探るような目を向け、聞き返してくる。

「いつから気付いていた?」
「最初からですよ。オリビア嬢が関係していると気付いたのは建国祭のときですが……。殿下のご様子がおかしいのは、二年前から気付いておりました」
「ではお前は、二年前から気付いていて、これまで黙っていたと?」
「ええ、まぁ。ですが当時の殿下に聞いても、答えてくださらなかったでしょう?」
「…………」

 ――そう。
 セドリックがアレクシスと話したかった内容とは、オリビアのことだった。

 二年前、療養のためにと領地に引き下がって以降、アレクシスの前に一度も姿を見せていない、ルクレール侯爵家の息女、オリビア。

 それまでは、(リアム)の訓練の様子を見にきたついでだの、父の議会に付いてきただのと何かと用事をこじつけてアレクシスの執務室に現れていたが、あるときを境に、それがぱったりとなくなった。

 そのあるときと言うのが、セドリックが単身帝都を離れ、諸国に出張に行っていた時期である。

(何より、あれ以来、殿下は明らかに"あの兄妹"の名前に敏感に反応するようになった)


 セドリックは思い出す。

 二年前の春、アレクシスがまだ将校だったころ、セドリックが単身で帝国を離れていたときのことを――。

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