ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

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 キッチンで悠輝がお辞儀をしていると、パチ、パチ、パチと気持ちのこもっていない拍手が起きた。

「あいかわらず口と手際だけは絶好調だな。納豆入りのハンバーグなんて、別々に普通に食えよって思うけどさ」

 そんなふうに揶揄する御更木蒼也はキッチンとつながったリビングの床に座り、ソファにもたれかかってタブレットを眺めていた。

 毛の長いラグの感触が気に入っていて、ソファに座らず背もたれ代わりにして、この体勢でいることが多い。

 半ズボンで私立小学校に通学していた頃から二十年以上の腐れ縁である赤倉悠輝は、毎晩のように蒼也が一人暮らしをしているマンションに通ってきて、ネット配信動画を撮影していく。

「だって、こんな豪華なキッチンスタジオ借りたらめちゃくちゃお金かかるんだもん」

「あのなあ、俺の部屋をスタジオって言うなよ。勝手に撮影用の冷蔵庫まで置いてるし。小さいけど、中身空っぽなんだから、邪魔なだけだぞ」

「感謝してるって。だから、ほら、いつもおいしい御飯作ってあげてるだろ」

 悠輝は蒼也の冷蔵庫を開けて中をのぞいている。

 そちらは動画用とは違って、野菜室から冷凍庫までぎっしりと食材が詰まっている。

「まあな、意外とちゃんと手間かけたもの作るよな」

 悠輝は決して手抜き料理しかしないのではなく、和洋中なんでもさらっと作ってみせるところは、SNSで一番バズった料理研究家としてネット流行番付で二位の大関に選ばれただけのことはある。

「でしょ、蒼ちゃんには特別おいしいものを食べて欲しいからね」

「その作り方を配信すればいいだろうに」

「それだとありきたりでバズらないよ。ちゃんとした料理番組は国営放送がお金かけてやってるだろ。僕はレシピにも、動画制作にもお金をかけないことにしてるのさ。コスト管理が継続の源だよ」

「いっぱしの経営者発言しやがって」

「蒼也みたいな上場企業のCEOに比べたらそりゃ天と地の差だけど、一応独立自営業者だからね。一国一城の主」

 悠輝の言うように、蒼也は創薬ベンチャー『ミサラギメディカル』のCEO(最高経営責任者)であるが、あくまでも御更木グループの傘下にすぎない。

 だから、一国一城で独立しているという点に関しては悠輝に一目置いているのだった。

 それでも、自分の部屋をスタジオ代わりに使われるのは迷惑で、嫌味の一つでも言いたくなる。

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