ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
 その夜、二人は同じベッドで眠った。

 初めての蒼也の腕枕に緊張しながらも、反対の腕で腰を抱き寄せられると、翠はなんとも言えない安らぎを感じた。

 夫婦の行為はできなくても、見つめ合い、何度も口づけを交わし、愛を伝え合った。

「翠、好きだ。愛してる」

「私も、蒼也さん」

「ずっと本音を言いたかった。これからは何度でも言うよ」

 何度でも聞きたい。

 蒼也の唇は熱く、パジャマ越しに伝わる鼓動が翠の心臓と響き合う。

 背中に回された手が遠慮がちに腰から下へと忍び寄る。

「ごめんなさい。今日は……」

 蒼也の手がぴくりと跳ねる。

「あ、いや、すまない。分かっているから、安心してくれ」

 ――我慢してるんだろうな。

 だけど、こればっかりは仕方がない。

 代わりにしてあげられることも分からない翠はただ蒼也の愛撫に身を委ねているしかなかった。

 子どもを寝かしつけるように背中をゆったりとしたリズムでさすられると、瞼がしだいに重くなっていく。

 と、安らかな寝息が聞こえてきた。

 ――蒼也さん?

 寝かしつけているつもりの蒼也が先に眠っていた。

 雲の上で昼寝でもしているような、なんとも言えない穏やかな寝顔だ。

 翠は蒼也の負担にならないように腕から頭を上げて枕に顔を埋めた。

 ――おやすみなさい。

 目を閉じると、コロッケを食べていた蒼也の姿が思い浮かんだ。

 結局、『うまいうまい』と、五個も食べたのだ。

 お父さんに教わって、お母さんのレシピを受け継いでよかったな。

 ありがとう、お父さん、お母さん……。

 私、幸せになるね。

 いつの間にか眠りに落ちていて、目が覚めたのは明け方だった。

 目の前に壁があって、それが蒼也の広い背中だと気づくのにずいぶんと時間がかかった。

 ――ああ、一緒のベッドで眠ったんだっけ。

 寝息のリズムで柔らかく揺れる背中に額と手を押しつけると、あたたかな体温を感じる。

 と、その時だった。

「翠……」と寝ぼけた声でつぶやきながら、蒼也が寝返りを打った。

 長い腕が背中に回され翠は抱き枕にされていた。

 ――ちょ、ちょっと……。

 眠っているだけに、遠慮も加減もなく抱きすくめられ、逃れることはできない。

 脚の間に膝が入り込んできて、固く大きな棒のような物が翠の腹に押しつけられる。

 ――え?

 何これ?

 何か隠し持ってるの?

 これって……もしかして……嘘でしょ。

 これを、アレするんだよね。

 ムリムリ、絶対無理。

 こんなのって……凶器でしょ。

 かわいい象さんじゃないの?

 え、ちょっと、どうしよう。

 蒼也の寝顔を見つめていると、頬が火照りだし、体の芯が熱く疼いて止まらない。

 こわいけど……。

 だけど……。

 ずっと我慢しててくれたのかな。

 こんなになるのって、そういうことだよね。

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