ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
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同日、朝八時。
高層ビルを見上げる街の一軒家で須垣陸はマシントレーニングに励んでいた。
流行の無人ジムをそっくり自宅に再現してあるので、通う時間、待つ時間を節約できる。
小学生まで須垣は圧倒的な学力で学級を支配していた。
しかし、中学生になると細身の体は思春期においては弱者の象徴として侮られ、何の能力もない格下の連中からイジメの標的にされた。
地元の進学校に進んでからの須垣は、太れない体質を筋肉質に改造し、アルバイトをして死に物狂いで金を貯め、なおかつ最高峰の大学に合格した。
すべては力――肉体、地位、金――を手に入れるためだった。
そして、在学中から仲間を集め、相場の波を操り、二十代のうちに百億を超える資金を動かすカリスマ投資家と呼ばれる存在になったのだった。
金で買える物は何でも手に入るようになると、物質への執着はなくなる。
普段着はファストファッションで、街を歩いていても誰にも気づかれないし、食べる物も栄養をバランス良く補給できればなんでもいい。
顔つなぎにパーティーに出ることはあっても、高級レストランへ行くのは無駄だと思っている。
健康もつきつめれば金で買える。
画面の前に張りついているネット投資家だからこそ、健康は大事だ。
そのための出費は惜しまず、プロボクサー並みの肉体を維持しているのだ。
仕事前のトレーニングには、テストステロンとアドレナリンをほとばしらせ、戦闘態勢を整える役割もある。
暴騰暴落、みなが恐れ投げ出す虚空と深淵を冷静に直視し、鉱脈を掘り当て、利益をつかむ。
弱い者は滅び、勝者だけがすべてを手に入れる。
そうやって須垣は、かつて自分を見下した者たちなど足元にも及ばない領域へと駆け上がったのだ。
プロテインをシェイクしながらディーリングルームへ入り、絶対に腰を痛めない特注のチェアに体を預ける。
百八十度取り巻くディスプレイに世界中の市況や経済指標が表示されている。
日本株のメイン画面にはミサラギメディカルの板が激しく点滅している。
その隣のチャット画面には、投資家仲間からの情報が流れてくる。
須垣はマイクのスイッチを入れた。
「標的はミサラギメディカル。目標は全部で二十億だ」
《ヒュー、マジかよ。作戦は?》
「ミサラギメディカルの浮動株は三十パーセント。ほんの三パーセントの空売りで、慌てた連中が我先にと逃げ出す。創薬ベンチャーのリスクは振れ幅が大きい。買い手がつかず、勝手にナイアガラができあがるさ」
《了解。前場で釣り上げたら、後場はストップ安まで落とすよ》
「やってくれ。仕掛けは俺から始める」
八時五十九分五十秒。
取引開始十秒前。
ミサラギメディカルに突如二万株の買い注文が掲示された。