社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「――好きよ。颯真さんが好き。この気持ちは変わらない。きっと一生変わらないと思う」

 片膝をつき、私を見つめる颯真さんの真剣な眼差しが私を射抜く。

 この言葉を告げれば彼との関係も終わる。そう想うだけで胸が張り裂けそうに痛い。

 だけど、もう迷わない。

 あふれ出しそうになる涙を堪え、前を向く。

「でもね、颯真さんの手は取れないの……」

「……それは、どうして?」

 こんな時にまで優しい颯真さんの声に抑えていた涙が流れ出す。

「もう一度、あのステージに立って『miracle』を歌いたい」

 膝をつきこちらを見つめる颯真さんが立ち上がり、私を強く抱きしめる。

「やっぱり、君はそう言うんだね」

 グリーンノートの香りに包まれ彼の胸へと頬を寄せた私には、颯真さんの表情は分からない。ただ、絞り出すように告げられた言葉は、涙声のようにも聴こえる。

 その感情を押し殺したような震え声に、胸が切なく痛む。

「ごめんなさい、ごめんなさい……、わがままを許して……」

「君が『花音』なら、そう言うと思っていたよ。いつだって、ファンへ向け小さな希望を与えていた穂花なら、きっと俺の手は取らないって」

「えっ!?」

「きっと穂花は、もう一度立ち上がる。あの時……、一人で戦うと君が言った時、そう思ったんだ。でも俺は往生際が悪いから最後まで足掻きたくなってしまった。穂花が困るだろうと分かっていてもね」

 切なさを滲ませた笑みが私の心を深く射ぬいて離さない。

 本当、優しすぎよ……

 どんな時も私の気持ちを尊重し、導いてくれる優しい人。

 彼は何も悪くない。

「……ひっく、ちが……、違う……、そうまさん、わるくないの……」

 ひっきりなしに上がる嗚咽で、首を振ることでしか『違う』と伝えられない自分が不甲斐なくて仕方ない。

「ありがとう、穂花」

 そう言って私をギュッと強く強く抱きしめた颯真さんの温もりと優しい声に、罪悪感でいっぱいだった心が少し救われたような気がした。
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