警視正は彼女の心を逮捕する
突然のプロポーズ
「日菜乃ちゃん、愛している。結婚しよう」

 熱く甘い瞳で、私の職場である美術館の『求愛』という絵画の前で。
 私にひざまづいてプロポーズしてくれたのは、賀陽(かよう)鷹士(たかし)さん。
 私のもう一人の幼馴染。

 三十一歳で既に警視正という、エリート中のエリート。
 百八十センチを超える身長で、運動神経抜群。
 剣道と合気道の達人で、最難関国立大学の法学部を首席で卒業した人。
 でも、美術オンチなところが可愛い人でもある。

 見惚れてしまうほど整った顔立ちは凛々しくて、『王子様』というよりは『若殿』という表現が昔から似合っていた。

 静かな佇まいなのに、怜悧な印象が強いのか。
 仕事関係者からは『彼の鷹の目(ホークアイ)は何事も見逃さない』とか、『日本刀』と噂されているみたい。
 私の前ではいつも柔らかな表情をしてくれているから、知らなかった。

 そんな彼が、ポケットから取り出したビロードの小箱から、指輪を抜いて私の薬指に嵌めてくれた。
 美術修復士という、少しOLさんとは違う職業を持つ以外は地味子で平凡な私に、まるでドラマか小説のような展開。

 ……でも、彼は。好きな人ではなかった……。

 なんで、こうなってしまったの。
 私はきっかけになった一ヶ月前の出来ことを思い出した。
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