警視正は彼女の心を逮捕する
一目瞭然なニセモノ
 ……同時刻、警視庁大会議室。

「マル被、美術館職員と思われる女性に接触」

 キビキビとした声が室内に響く。

「ズームできるか」

 管理カメラの映像を確認していた捜査員が機材を捜査した。
 荒いが、スクリーンへ助手席に座った女性の顔が映し出される。

 ……名前を見るまでもない。 
 日菜乃!
 彼女の顔を見た途端、捜査二課課長である賀陽鷹士警視正は心の中で叫んだ。

「身元でるか」
「お待ちください」

 係員と上司のやりとりのあと、女性へ映像の照準が定まり、クローズアップされる。

 隣のモニターに、連動システムから該当する女性が次々に照会されていく。
 鷹士が息を詰めていると、やがて一人の写真でぴたりと止まった。

「……賀陽、日菜乃……?」

 読み上げた係員がごくりと喉を鳴らす。
 珍しい苗字だ。
 自然と室内の視線が鷹士に集中する。
 鷹士は口を開く。
 彼女を認めた瞬間、覚悟を決めていた。

「私の妻だ」

 ざわつく。

「静かに!」

 課長補佐の警視がマイクをオンにした。
 室内が一瞬で静まりかえる。

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