警視正は彼女の心を逮捕する
「日菜乃ちゃん、さっきの菓子でコーヒータイムしないか」

 鷹士さんの提案に、心がさらに湧き立つ。

「いいですね!」

 ……夜、あんまり食べるといけないんだけど。
 今日は特別。

「じゃあ、日菜乃ちゃんは菓子をセッティングしてくれる? 俺は飲み物を入れる」
「わかりました!」
 
 なにが出てくるんだろう?
 ウキウキとリボンを解く。

「可愛いラッピングを解くの、ワクワクしますね!」
「………………そうだね」

 テンションの上がっていた私は、鷹士さんがリアクション薄いなとは思ったけれど気にしない。
 それよりも。
 現れたお菓子を見て、私は歓声をあげた。

「バーチ・ディ・ダーマ!」

 イタリアのお菓子で、私が修行中にハマったものだ。

「よかった」

 鷹士さんがほっとしたような声を出した。

 シンプルな分、作り手の個性が出る。
 師匠とダニロと私で三人で作りっこしたっけ。

 懐かしさに胸がいっぱいになる。

 ……ことりと、マグカップが置かれた。
 あ。
 コーヒーの匂いに、私は真顔になる。
 しまった。
 鷹士さんが説明してくれた。

「大丈夫、カフェインレスなんだ」

 夜にコーヒーを飲むと眠れなくなるの、なんで知ってるの?
 
「……私、言ったことありましたっけ」
「イタリアを訪れたときにね」

 鷹士さんが一度だけ、修行先に遊びにきてくれたことがある。

 ダニロと意気投合して、バールに行ってしまった。
 二人は夜中になるまで帰ってこなくて。
 私はコーヒーを飲んで、寝ないで待っていたのだ。

 ……あのとき。
 鷹士さん達は互いの肩を抱きながら、師匠のアリアを歌いながら帰ってきたんだっけ。


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