【番外編更新中】騙し愛され落とし合い ~借金帳消しのために、××の家でお嫁さん候補としての生活を始めます~
「一口だけだからね!」
スプーンでグラタンをすくって口許にもっていけば、慎くんは満足そうに口を開けてもぐもぐ動かす。
「うん、美味しい」
「それはよかったね」
「だけどさ、」
そこで言葉を切った慎くんが、私の耳元に顔を近づけてくる。
「――やっぱり俺は、千夏子が作ってくれる料理が一番好き」
耳元で、そう囁かれた。
次の瞬間、女の子たちの小さな悲鳴が辺りから聞こえてくる。
「なっ……」
「千夏子、耳まで真っ赤。もしかして照れてるの?」
「っ、……慎くんのばか!」
わざわざ耳元で言ってくれたのは、周りの子に聞こえないようにっていう配慮かもしれないけど……それでも、距離が近すぎる!
……まぁ、料理を褒めてもらえたことは嬉しかったけど。
私は赤くなった顔をかくすように、下を向きながら食事を始めた。
だけど、せっかくのホテルのバイキングの味は、隣にいる慎くんを意識してしまったせいもあって、あまりよく分からなかった。