【番外編更新中】騙し愛され落とし合い ~借金帳消しのために、××の家でお嫁さん候補としての生活を始めます~


「一口だけだからね!」


スプーンでグラタンをすくって口許にもっていけば、慎くんは満足そうに口を開けてもぐもぐ動かす。


「うん、美味しい」

「それはよかったね」

「だけどさ、」


そこで言葉を切った慎くんが、私の耳元に顔を近づけてくる。


「――やっぱり俺は、千夏子が作ってくれる料理が一番好き」


耳元で、そう囁かれた。

次の瞬間、女の子たちの小さな悲鳴が辺りから聞こえてくる。


「なっ……」

「千夏子、耳まで真っ赤。もしかして照れてるの?」

「っ、……慎くんのばか!」


わざわざ耳元で言ってくれたのは、周りの子に聞こえないようにっていう配慮かもしれないけど……それでも、距離が近すぎる!

……まぁ、料理を褒めてもらえたことは嬉しかったけど。


私は赤くなった顔をかくすように、下を向きながら食事を始めた。

だけど、せっかくのホテルのバイキングの味は、隣にいる慎くんを意識してしまったせいもあって、あまりよく分からなかった。


< 153 / 247 >

この作品をシェア

pagetop