脇役だって、恋すれば
 確かに英会話教室が入っている小さなビルの隣には、高級感溢れるマンションが建っている。慶吾さんも近くだとは言っていたけれど、まさか隣だったなんて!

 もしかして、それで変な誤解を?

「違うよ、私が行こうとしてたのはそこ!」

 とんとんと胸を叩いて、斜め後方にある教室の立て看板を指差す。それを見た青羽は、狐につままれたような顔になって腕の力を緩めた。

「英会話、教室……?」
「今日、社内を案内してもらった時にたまたま英語を習いたいって話になって。慶吾さんが、マンションの近くにいいところがあるって紹介してくれたの」

 かいつまんで説明すると、彼は「はぁぁ~」とめちゃくちゃ大きなため息を吐き出した。安心したように脱力しながら、もう一度私を抱きしめる。

「なんだ、よかった……。藤井さんから、今夜ふたりは社長のマンションで会うみたいだとか、香瑚が『絶対行きます』って言ってたとか聞いて。信じてなかったけど、帰り際に他の社員も似たようなこと話してたから本当かもと……焦った」

 なるほど、私たちの会話を所々聞いていた人たちが誤解したのか。

 慶吾さんの発言の『僕のマンション』、『今夜はどう?』という部分だけ切り取れば、誘っているように思えなくもない。藤井さんはあえて嘘をついたのかもしれないけれど。

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