ねぇ、きみ。
「あいつ消えたな。」


「それな、陸も見てないのかぁ。。どこいったんだろね?」


「見つけたら教えて、」


「うん、ってか今からもうバスケ観る体育館むかうからついでに探しつつ行くね。」


「サンキュ」


そんな話をして、学校を出る。


学校は坂の上に立っているから、帰りは下り道だ。


いまから陸とあいつと3人で、バスケを見に行く約束をしてる。


だから、今日は駅からバスに乗って体育館に向かう予定。


途中の分岐路にさしかかったとき、いつもは通らないほうの道にあるベンチに目が行った。というのも、そこには探していたあいつの姿があって。


なにしてるんだろう、って思いながら近づくと、座って風景画を描いていた。どうやらここから見える滝を描いてるみたいだ。


「ね、探したんだけど!なにしてんのよ?」


「描いてる。」


「はやくいこーよ」


「いや、もうちょっとこれ描いてから。」


「なら終わるまで待ってる。一緒に行こ。」


「ん。」


彼が座っている隣に、ちょっと距離をあけて座る。邪魔しないように、って。


黙って必死に絵を描く彼。何気に上手いし、なにか心を惹かれる美しさがある。


「はーー、つかれたぁ。」


そういって急に頭からもたれかかってくる彼。


なんでかわかんないけどかわいいなぁ。


こういう不器用な仕草一つ一つが好きで、飽きさせてくれない。


もたれかかってくる彼に合わせるようにして、わたしは身体の向きを変える。


ベンチにまたがるようにして、彼にくっついた。


こうやって、言葉を交わすわけでもなくただ静かに、彼に触れている時間がたまらなく好きだったりする。落ち着くし安心するし、愛おしい。


しばらくそうしていると、坂を下ってくる人影が見えた。


小学校が同じだった、南という男子。


遠くで目が合うと、向こうは驚いたように目を見開いてこちらにやってきた。


「み、なみ、、、?」


そう尋ねると、ふぃっと目をそらされてしまう。


久しぶりだから気まずいのかもしれないけど、ちょっとかなしい。


みなみは私ではなく、あいつに話しかけた。


「あれ、、、?ふたりって知り合いなの?」


「小学校の時の塾が同じだったから、」


「あーね、そうだったんだ。知らなかった」


「ってかお前らどゆ関係?」


うーん、友達かな。そう言おうとしたんだけど、あいつに先を越された。


「カレカノ。」


そういいながらぎゅっと私を抱きしめてきた。


愛おしそうに、私の身体をつつむように、頭をもたげて抱き着いてくる。


彼が自分から抱きしめてくれるなんて、それも人の目があるところでこんなことするなんて本当にめずらしいし、でもそれがちょっと嬉しかったりする。


「そーそー、カレカノなの。」


彼に合わせるように言葉を重ねる。


なのに、なぜか私の腕はぶらんと宙に垂れ下がったまま。


彼のことが嫌いになったわけでも、人前だからって恥ずかしがってるわけでもない。


なのに、なぜか今は彼を抱きしめ返す気にはなれなかった。


普段なら喜んで幸せに浸って、ぎゅってするはずなのに。


心の中は変に穏やかで、落ち着いている。


「へー。」


南はそう興味なさげに呟いて、じゃあ、ともと来た道を帰っていった。


南が行ってしまってからも彼の腕は私を抱きしめたまま。


穏やかだった私の心が、突然に荒れ始める。


あぁ、きっと。


私は気づいてしまったんだ。


今まで気づかないようにしてきたし、知らないふりをしていたけど。


きっと私は、何事にも無関心で気だるげな、でもたまになにかに一生懸命になってる彼が大好きで。


私に無関心な彼に、抱きついてくっついてる時間が好きで。


私のことを好きな彼が、私を抱きしめてくれる彼が好きなわけじゃない。


興味を持たれない心地よさに、彼の身体の温かさに甘えていたいだけだったんだ、って。


気づいてしまったらとつぜん、寂しくなる。


もうこうしてくっつくことはないかもしれないな、なんて思いながら彼の腕にこたえるように抱きしめた。


この安心感も、無言の穏やかさを感じられるこの時間も、もう終わりなのかもしれない。


彼が私に興味を持ってしまった瞬間終わってしまう、つな渡りのような関係。


それでもいい、って決めたのは自分だけど。


終わりを決めるのも自分だけど。


やっぱり寂しいなぁ。


今までありがとう、って思いを込めて、彼を精いっぱい抱きしめた。
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