隣の席の室井くん①
相変わらず、ニコニコと笑いながらカメラに向かってピースをしている相沢くんの横で
眼鏡姿の室井くんは、どれもこれもそっぽを向いていた。
「・・・あ」
・・・思わず小さく声が洩れる。
分かった。
室井くんの笑ってる写真がないんだ。
思わず前のページへ戻って見返す。
幼稚園頃の写真は泣きベソの写真もあるものの
ニッコリと犯罪級の笑顔を見せている写真も沢山ある。
そんなに多くはないページをぺらり、ぺらり、とめくっていくと
小学校高学年くらいの写真から、室井くんはどれも無表情だ。
中学生になると写真が一気に減ったばかりか、カメラに視線を向けてない写真がほとんどだ。
どれもこれも
笑顔どころか、表情がない。
なんとも言えない違和感はコレだ。
不思議に思いながらも
更にページを進めると
「ギター・・・」
ギターを手にした室井くんが映っている。
その横にいる相沢くんの髪も中学生のクセに今程ではないが、明るくなっていた。
ギターを手にした室井くんは、やっぱり無表情で
前髪も随分と伸びてきている。
アルバムは、その写真を最後にそこで終わっていた。
「ごめんね」
と、タイミングよく部屋に戻ってきた室井くんは
申し訳なさそうに再びソファーに座った。
アルバムから視線をあげ
室井くんを見ると
「あ、終わった?」
と、いつものように
へにゃりとした笑顔を向ける室井くん。
「あ、うん、ありがとう」
最後のページのまま開かれたアルバムを室井くんが覗き込む。
「その辺写真少ないでしょ」
室井くんの言う通り
中学生時代の写真は幼稚園や小学生の時に比べて
少なかった。
「写真、あんまり好きじゃなくて。だから最近のはほとんどない」
と室井くんは苦笑いする。
・・・あぁ、なるほど。
だからどれも無表情なのか。
なんとなく、ホッとしながらもアタシは写真に目を落とす。
「この辺から前髪も伸びてきてるね」
指をさした写真の室井くんは、目の辺りまで前髪で隠れている。
「ん~、人見知りがかなり激しくなった時期だからね」
あはは、と笑う室井くんのちょんまげが揺れる。
それを見つめながらアタシもやんわりと笑った。
「あ、ねぇ室井くん。家族の人の写真もないね?」
そういえば、ご家族らしき人が一度も出てこない。
こんな綺麗な顔を作り出した遺伝子だ。
恐らく美形家族に違いない。
・・・なんて軽い気持ちでなんとなく言った言葉に
室井くんが、ふと笑いを止めた。
・・・あれ?
・・・なんかマズイこと聞いちゃったかな・・・?
けど、笑顔が消えたのは一瞬で
次の瞬間には再び室井くんの顔にはあのへにゃりとした笑顔が浮かんでいた。
それに、少しホッと胸を撫で下ろす。
「あの人あんまり、家にいなかったから」
のほほんと答える室井くんの言葉に再び違和感を感じる。
「あの人?」
「うん、母親」
ソファーに再び身を沈めた室井くんがサラリとそう発する。
「え?お父さんは?」
「ん?いないよ」
・・・・・・タブーな話だったんじゃ・・・・・・