年上男子、全員私にだけ甘すぎる件
Scene 5|ちょっと危ない、でもやさしい
その日は、兄が夕方まで帰ってこない日だった。
だからこそ、家に帰ってリビングのドアを開けた瞬間、
ソファに見慣れた人影があるのを見て、思わず声が漏れた。
「……奏くん?」
「ただいま、ねね」
それ、兄に言うやつじゃない? って思ったけど、
あまりにも自然すぎて、ツッコミすら忘れた。
「柊の頼まれてたプリント、届けに来たついで。……それだけ、だったけど」
奏くんの視線が、わずかに私の足元から顔までを追う。
その目に、いつもと違う色を見た気がして、胸がそわそわする。
「……さっき、カフェ帰りだった?」
「えっ……なんで……?」
「袖にミルクの香り。……もしかして、あいつ?」
“あいつ”って、柊真先輩のこと?
そんなふうに呼ぶの、ちょっと珍しい気がした。
「……うん、会いました」
「ふーん……そっか」
奏くんはテーブルに置いた資料をチラと見て、
それから私の方に目を戻す。
その目が、少しだけ低くて、
まるで、私の中を見透かしてるみたいだった。
「最近、どう?」
「……なにがですか?」
「いろんな男に囲まれて、ときめいて、揺れて……
……疲れてない?」
その問いに、心の奥をそっとなでられた気がした。
奏くんは立ち上がって、
私のすぐ隣に座る。
距離が近い。
息を吸ったら、同じ空気が肺に入ってしまいそうなくらい。
「ねねって、わかりやすいけど、がんばるタイプだから」
「……そんなの……ずるいよ、奏くん」
「うん。ずるいの自覚してる」
「だったら……やさしくしないで……」
「無理。……だって俺、昔から、ねねのこと好きだから」
鼓動が、跳ねる。
全身に響くほど、ドクンって。
「え……今……」
「言ったよ。聞こえただろ?」
手の甲に、そっと彼の指が触れる。
そのまま絡めるわけでも、強く握るわけでもなく、
ただ、重ねるだけ。
「昔は、兄貴の妹って肩書きが邪魔で言えなかった。
でも、もう我慢する理由、ないよな」
目が、まっすぐ。
甘いけど、逃げられない。
この人の目に見つめられると、全部嘘がつけなくなる。
「他の男のとこ、行くなよ。
行ったら……俺、止まれないかもしれない」
「……奏くん……」
「……俺にだけ、そんな顔してて」
そっと髪に触れられたその瞬間、
涙が出そうになった。
優しすぎて、苦しいくらいだった。