年上男子、全員私にだけ甘すぎる件
Scene 3|この心臓の音、きっと恋に聞こえてしまう
——もう、だめかもしれない。
笑いすぎて、お腹も、胸も、いっぱいいっぱいだった。
奏くんの“ねねバカ発言コレクション”とか、
陽向先輩の“九九ラップ”とか、
柊真先輩の“強制無言タイム”とか、
澪くんの“静かにツッコむ空気圧”とか……。
どこを見ても、楽しくて、やさしくて、
でもわたしの頭の中はずっとぐるぐるで。
——こんなに優しくされるのって、
嬉しいのに、どうして、ちょっとだけ苦しくなるんだろう。
そんなときだった。
「……ねねちゃん、ちょっと外、出てみる?」
その声が、やさしすぎて、
胸の奥がふわってほどけた気がした。
カフェの裏手。
夜の風が、ひんやりしていて、でも、気持ちよかった。
横には律先輩がいて、
静かな空気が、なんとなく心地よくて。
「……ちょっとだけ、疲れました」
「そっか。がんばってたもんね」
「はい。たぶん、笑い疲れ……です」
「ふふ。じゃあ、僕のせいかも」
律先輩の笑い声が、夜の空気に溶けていく。
その音だけで、なぜか胸がぎゅってなるの、ずるい。
「でもねねちゃん、今日、すごくいい顔してたよ」
「え……」
「全部の笑顔、ぜんぶ見てた。……ずっと」
目が合った瞬間、心臓の音が跳ねた。
音が、大きすぎて、ばれてないか不安になる。
「……わたし、先輩の前だと、うまく呼吸できないです」
冗談みたいに言ったつもりだったのに、
律先輩は、静かに笑いながら、わたしの指先に触れてきた。
「それは、ねねちゃんのせいだよ」
「え……?」
「僕も、ねねちゃんの前だと、
自分の気持ちが抑えられなくなる」
律先輩の手が、指先からふわっと重なって、
冷えてたわたしの手が、あたたかくなる。
「……それって、ずるいです」
「うん。……ねねちゃんには、ずるくなってしまうみたい」
「……先輩」
「……うん?」
「また、触ってもいいですか?」
聞いたあとに、恥ずかしさで目を伏せる。
でも律先輩は、ぎゅっと強くじゃなくて、
“静かに、でも確かに”わたしの手を握ってくれた。
「がんばり屋なねねちゃんも、
天然なねねちゃんも、
勉強できなくて焦ってるねねちゃんも——」
「……全部、僕だけに見せて?」
あ、もう無理。
このまま、溶けそう。
“好き”って言葉、まだ怖いのに、
“この人じゃなきゃだめだ”って気持ちだけが、
どんどん強くなっていく。
この心臓の音、きっともう恋に聞こえてる。
聞かれても、……止めたくないって思ってる。