紅い蝶の見る夢
人間を殴った時の独特な音。
地面に蹲り痛みに悶える叫び。
そして、
「ヒッ、ぎ、あぎゃあぁぁぁあああ゛ぁぁ!!!」
裏路地に響く断末魔。
まだ辛うじて意識のある男はカイに手を伸ばして小さな声で助けを求める。
「も、ゆる、して…」
しかし、その声を拾ってくれる人間は誰もいなかった。
無関係な第三者は勿論のこと、ここには相当な物好きもあの“お人好し集団”もいない。
目の前にいるのは彼等だけ。
この非情な街を体現するかのような絶対的王者とその守護神。
本来なら5匹の守護神は王の言葉以外には従わない。
彼等が首を垂れるのはただ1人の王だけ。
それはこの街に足を踏み入れた者なら誰だって知っている常識だった。
それ故男は自分の訴えが聞き入れてもらえないことは分かってはいたが、それでもどうにか助かりたくて目の前の人物に向かって必死に手を伸ばしていた。
その光景にカイは綺麗に笑った。自業自得と言いたげに。
その時、柔らかな風が頬を掠め深く被っていたフードがパサリと落ちた。
驚愕の色を浮かべる男は真っ青な顔で狂ったように叫び出した。
「べ、べにち…っ!?」
ゴキッ、
「……それで呼ぶな。虫唾が走る」
綺麗で、妖艶で。
しかしどこか幼さの残る笑みは最後まで崩れることなく、男達を地獄へと突き落とした。
後に唯一の目撃者である女はこう語る。
彼等は人間ではない。人間の皮を被った化け物だと―――。