暁に星の花を束ねて
爆煙が立ちこめる展示会場。
逃げ惑う人々の中で、佐竹は端末を起動し、即座に通信を繋いだ。

「影班、全域制圧。先ずは負傷者救出を優先。残存は一人も逃がすな。──殺すな、捕縛だ」

冷徹な声が響いた。

数秒後、場内の影が一斉に動く。
黒装束の敵を逆に包囲し、観客の誰一人として気づかない速さで狩りが始まった。

葵の背筋が凍りつく。

(こ、殺すなって……!? なにそれ……っ、ここ企業……だよね!?)

頭の中で何度も聞き返してしまう。

普通の会社なら「警備部に任せる」とか「通報しろ」じゃないのか……

しかも佐竹は戦場の司令官のように、当たり前のように制圧、という。

人波の隙間を影のように駆ける黒衣たち。
観客は気づきもしない。
葵の呼吸は乱れ、胸の奥がぎゅっと縮む。

(……こわい……)

隣にいる佐竹の顔は、恐怖というものを持たないかのように冷たい。

彼が口にする命令は、葵にとっては現実感を失わせるほど異質で、それでも逆らえない絶対性を帯びていた。

葵はその光景をただ呆然と見つめていた。

胸が苦しい。
足も震えて、まともに立っていられない。

(さっき……わたし、捕まっていたかもしれない……でも、どうして?)

喉が焼けるように乾き、冷たい汗が背を伝う。
紅茶の残り香がまだ鼻にあるのに、現実は血と鉄の匂いに満ちている。

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