暁に星の花を束ねて
「星野葵」

佐竹が短く呼んだ。
葵ははっとして顔を上げる。
彼の瞳には迷いも恐怖もなかった。
ただ冷徹に、次の一手を計算する光が宿っている。

「おれがいる。大丈夫だ」

その言葉は葵の心配を溶かすようにほどけた。

(同じ人間なのに……どうして……どうしてこんなに違う……)

葵から視線をずらした彼の視線が、一瞬鋭く細められる。


──遅い。


敵の一部は既に会場外へと離脱していた。
完全な阻止は叶わない。

沈黙のまま端末を閉じた佐竹は、ひと呼吸置いて口を開いた。

「……玉華」

低く、鋼のように揺るがぬ声。
その一言に、葵の心臓はまた大きく跳ねた。

次の瞬間、天井の梁から黒い影が降り立つ。
艶やかな黒のナノスーツ、鋭い気配。

──朧月玉華。

影班が残党を押さえ込み、会場のざわめきが次第に遠のいていく。
葵はまだ足が震えていた。
しかし隣の佐竹は、ひとつも乱れない呼吸で立っている。

その前に、朧月玉華が跪いた。

黒いナノスーツに包まれた肢体は、ひとつの刃のように研ぎ澄まされていた。
長い睫毛の奥で光る瞳。張りつめた空気の中でなお凛とした美貌。

(……この綺麗な人、誰なんだろう……)

息が詰まる。
まるで舞台から抜け出してきたかのような存在感。
同じ女性でありながら、次元の違う気配に葵はただ呆然と見入ってしまった。

「佐竹さま、申し訳ありません」

玉華が静かに頭を垂れる。

佐竹の黒い瞳が細められ、冷ややかな声が落ちる。

「おまえ、何をしていた?」

空気が一瞬で凍りついた。
怒号ではない。
だがその声音は、叫びよりも痛烈に突き刺さる。

玉華の肩がかすかに揺れる。

「陽動任務に……。扇を率いて外周を警戒しておりました。ですが──」

「結果は失敗だ」

鋭く遮る一言。

叩きつけられたわけでもないのに、葵は自分の胸が締めつけられるのを感じた。

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