アリのように必死に。 そして、トンボのように立ち止まったり、後戻りしながら。 シジミチョウのように、柔らかな青に染まった翅を自在に動かして、私は飛んでいく。

22

 空が真っ黒になっていく時間まで、私は図書室で時間を潰していた。

 早く家に帰ったら、お母さんの友達によって、お母さんに研究会に言ってないことが伝わるかもしれないから。

 前まで、あんなふうに研究会のことを楽しそうに話してた自分が懐かしい。

 
 もう、みんな帰っただろう。

 私は、昆虫研究室を覗き込んだ。

 そして、左右を見渡す。

 廊下には誰もいない。

 私はさっと、ドアを開けて、人がいないか確認して、その教室に入った。

 見慣れた図鑑。新しく買い始めたらしい昆虫。

 机の上には、本とパソコンが広げられていた。それに近づいて、パソコンの画面を覗く。

 
「ガラ、ガラ」

 ドアが開く。ドアの先には鈴川さんがいた。

 教室の中にいる私を見て、目を丸くしてる。だが、納得したかのように、パソコンのある机のほうに歩き始めた。

 (え、)

 私は気が動転して、すみません、と小さくくりかえしながらドアの方へ小走りした。

 「ああ、安桜さん、この間、描いた新聞、掲示しましたよ」

 思い出したように、新聞の貼られた、ドアの方を指さして言った。

 「え、あ、ありがとうございます」

 ドアの前に掲示されてる新聞を見る。

 上の段に3つ。その下に2つ。上に右から、奥谷君、鈴川さん、蕾ちゃん、若葉さん、私の。


 奥谷君。アタマアブについて。

 写真をたくさん使うところ。伝えたいことをストレートに書くこと。ヤバいやマジでの口語も使うこと。読むだけで、奥谷君の話口調に聞こえてくる。

 鈴川さん。クマバチについて。

 学名。分類。細かく書いてある。5mm四方くらいの小さな字が紙全体に並ぶ。でも、グラフや表が丁度いいくらいに加えられていて、分かりやすい。

 蕾ちゃん。トンボ。

 たくさんの種類のトンボの写真が貼られていた。パッチワークみたい。とてつもなくきれい。

 若葉さん。シジミチョウ。

 文鳥は蛍光ペンが引かれていて、重要なところが分かりやすい。下の3分の1はおさらいクイズ。答えの上に紙を貼って工夫している。あったかいな。

 次のは、私の。アリ。

 来てなかったのに、貼っていたことに嬉しさを覚えた。上半分を見て、懐かしさを覚える。下半分の埋まってなかったはずの欄には、寄せ書きが書かれていた。

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