アリのように必死に。 そして、トンボのように立ち止まったり、後戻りしながら。 シジミチョウのように、柔らかな青に染まった翅を自在に動かして、私は飛んでいく。

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 その寄せ書きの言葉の横列の1段目がある言葉になっていた。

 「ありがと」

 
 多分、若葉さんのアイデア。若葉さんはこういうサプライズや暗号みたいなことが好きだから。

 定番もの。でも、それには大切な思い出や気持ちが込められてる。

 私は、その文字を呑み込んで、駆けだした。


 階段を1段飛ばしで降り、廊下も走って行く。

 校舎を出ても、走る。走る。走る。

 走ってる私に目線が集まる。

 変だって、必死だって、思われることが嫌だった、私にはおさらばだ。人の目なんて、気にしない。いま、重要なのはそこじゃないから。蕾ちゃんと若葉さんに私の気持ちを伝えることだから。

 ハア。ハア。ハア。

 赤信号で止まったら、息切れが止まらない。まだ春の寒い日だというのに、暑くて暑くてたまらない。汗が噴き出て、心臓がバクバクしてて、頭も朦朧としてる。

 それでも、それでも、信号が青に変わったら、また走り出す。

 2人に言う言葉。どんなに拙くなったとしても、2人には届くはずだから。

 コンビニ。洋服屋。公園。それを走って、走って、横切っていく。

 いや、違う。

 ちゃんと、考えなくても、伝えたいことは出てくるだろうから。練ったりせずに思うことを必死に伝えればいいんだ。それが結果的に拙くなったとしても、その言葉は本当だから。



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