ゆびさきから恋をする
Section1
鬼上司は仕事を山ほど振ってくる
穏やかだった実験室は最近ピリピリしている。理由は一つだけれど、誰もその事実を口にもしない。精神的に弱めで体調を崩しやすくて休みがちだった課長はついに本格的なお休みに入ったらしい。そして多分もうこの部署には帰ってこないらしい。らしいらしいというあいまいな表現はそれもみんなが口を噤んでいるから。
理由は正式に配属になった新しい上司のせいだろう。
「菱田さん、遠心分離機に入ってるサンプル、100ミリに定容しといてくれない?」
「……急ぎですか?」
「早いとなおいい」
「……了解しました」
そう返事した私に愛想みたいな「よろしく」だけをこぼして実験室を出て行った。
(忙しいのはわかるんですが……私の仕事の都合は聞かないのかい?)は、当然言わない。
久世さんは隙をついたように私に仕事を振ってくる。
毎回手が回らないのに無理ですよ! みたいなときではなく、なんとなく仕事の目途が立った時や一息つけるなみたいなときにタイミングをはかったように投げてくるのだ。
(これはむしろ計算? わかってやってる?)
いつもこちらに断る理由がないときにばかりを狙ってくるから余計に腹が立つ!
理由は正式に配属になった新しい上司のせいだろう。
「菱田さん、遠心分離機に入ってるサンプル、100ミリに定容しといてくれない?」
「……急ぎですか?」
「早いとなおいい」
「……了解しました」
そう返事した私に愛想みたいな「よろしく」だけをこぼして実験室を出て行った。
(忙しいのはわかるんですが……私の仕事の都合は聞かないのかい?)は、当然言わない。
久世さんは隙をついたように私に仕事を振ってくる。
毎回手が回らないのに無理ですよ! みたいなときではなく、なんとなく仕事の目途が立った時や一息つけるなみたいなときにタイミングをはかったように投げてくるのだ。
(これはむしろ計算? わかってやってる?)
いつもこちらに断る理由がないときにばかりを狙ってくるから余計に腹が立つ!
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