きみがわたしを××するまで

 結菜に対する罪悪感のせいで、彼女を悪者だと決めつけていた。
 その前提を覆したら、どこに感情をぶつければいいのか分からなくなりそうで。

 だから、やるせなさのはけ口にした。
 負い目から目を逸らし続けていたのは、僕も同じだった。

 思い知る。
 結菜のためじゃない。自分のため、でしかない。

「……分かろうともしなかった」

 ────僕が他人に興味を持てないのは“諦め”だったんだ。
 復讐を果たしたらどうせいなくなるつもりだったから、自分自身と結菜以外はどうだってよくて。
 理解されなくていい、ひとりでいい、と復讐に囚われて正当化し続けていた。

 あのとき入れ替わって、僕たちは見たくないものと嫌でも向き合わなくちゃならなくなった。

 取り繕った表面部分を()ぎ落とし、ひた隠しにしていた内側をむき出しに、本心でぶつからざるを得なくなった。

 これまで曖昧に笑ってやり過ごし、他人を遠ざけていた僕はそうなって初めて、誰かと関わることで見えてくるものもあるんだと気がついた。

 必要以上に馴れ合う必要はないけれど、自分ではない誰かの視点がくれる気づきもあるのだと、あの非日常的な体験を通して知った。

 気づきを得たのはきっと僕だけじゃない。
 彼女も彼も、自分ひとりでは知りえなかった現実の側面を見たはずだ。

 自身を偽って、傷つけて、そうまでして僕たちは何を守りたかったんだろう。

 ぽん、とふいに肩のあたりに手が触れた。
 自分の一部分みたいに妙に馴染んだ体温が不思議と心地よくて、はっと顔を上げる。

「お互いさま。そうでしょ?」

 彼女は小さく笑った。
 いつの間にか心の濁りが澄んで、清々しい風が通り抜けていくようだった。



「何か食べます? 林檎ならすぐ出せますけど」

 ひと通りの雨風が去ると、菅原が穏やかな調子で口を開く。

「いいね、ちょうど時期だし」

「わたし、果物は食べられないんだってば」

「あ、そういえばそうでしたね」

「へぇ……そうなんだ」

 それは初耳だった。
 そんな大事なことを、彼女としての日々を過ごしたことのある僕にも黙っていたなんて。
 それなのに、菅原は知っていたなんて。

「まあいいじゃん、それなら林檎は僕たちだけ楽しもうよ」

「えぇー。ひどいな、もう」

 彼女はすねたように言いながらも、屈託なく笑う。
 菅原も頬を緩め、僕もまた知らないうちに顔を綻ばせていた。

 ────茅野円花はもういない。

 “完璧”な化けの皮は剥がれ落ちた。
 過去を忘れ、罪から逃げ、自分のためだけに生きていた彼女はもう、どこにもいない。

 完璧な善人なんて幻想だった。
 そもそもそんなもの、目指す必要もなかった。

 飾らない等身大の、ありのままの彼女がここにはいた。



【完】
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