【手直し中】野いちご源氏物語 一九 薄雲(うすぐも)
 二条(にじょう)(いん)までの道中(どうちゅう)源氏(げんじ)(きみ)明石(あかし)(きみ)の気持ちを想像していらっしゃった。
<こんなにひどいことをしてしまって、きっと(ばち)が当たるだろう>
 暗くなってから到着なさった。
<なんと華やかなお屋敷だろう。田舎(いなか)くさい自分には恥ずかしい>
 乳母(めのと)女房(にょうぼう)はくらくらしながらも姫君(ひめぎみ)の部屋に入ってみる。小さな家具がかわいらしくそろえてあって、乳母にもきちんと部屋が用意されていた。

 姫君は乗り物の中で眠ってしまわれていた。乳母が()き下ろしてもお泣きにならない。出されたお菓子を食べると、しだいにあたりを見回して、母君(ははぎみ)がいないことに気づかれたらしい。泣き出しそうなお顔をなさったので、源氏の君は乳母が呼んで、姫君の気分を(まぎ)らわせておあげになる。
<明石の君にはかわいそうなことをしたが、これでやっと思いどおりに姫の世話ができる。姫を中宮(ちゅうぐう)にという計画が始まったのだ。だが本当は(むらさき)(うえ)に子どもができてほしかった。母親が紫の上なら誰もけちを付けられない完璧(かんぺき)な子だったのに>
 源氏の君はお(くや)しい。母親の(かく)はそれほど重要だった。
 姫君は、しばらくは母君や親しい女房を探して泣くこともあったけれど、そもそもおっとりしたご性格なので、紫の上によく(なつ)いてご機嫌(きげん)に過ごしていらっしゃる。
<なんてかわいらしい宝物をいただいたのかしら>
 紫の上はつききりで姫君のお相手をなさるので、乳母も自然と紫の上に慣れていった。

 袴着(はかまぎ)儀式(ぎしき)は、源氏の君としてはふつうの準備をなさったつもりだけれど、やはり(なみ)大抵(たいてい)ではない見事な儀式になった。人形遊びのようなかわいらしい(かざ)りつけがされている。
 お客様もたくさんいらっしゃった。二条の院はもともと来客が多いから、特にめずらしくはないけれど。
 何より姫君の愛らしさがすばらしかった。(はかま)(ひも)を結んだお胸のあたりが、姫君のかわいらしさをさらに引き立てる。

 大堰(おおい)(がわ)の屋敷では、明石の君が姫君をいつまでも恋しがっていた。手放してしまったことを後悔(こうかい)している。二条(にじょう)(いん)に渡すことを(すす)めた尼君(あまぎみ)も、今はすっかり涙もろくなった。
 それでも姫君が大切に育てられていると聞けばうれしい。袴着の儀式に何か贈り物をしたいけれど、立派なお祝いがたくさん届くはずだと思うと気後れしてしまう。姫君用の品物を差し上げるのは遠慮(えんりょ)して、乳母や女房のためにすばらしい色合いの着物を贈った。

<私が来るのを待ち遠しく思っているだろう>
 源氏の君は明石の君がお気の毒で、年末にこっそりお訪ねになる。大堰川の屋敷はますます(さび)しくなっていた。
<もはや世話する姫さえいないのだから、心を(なぐさ)める方法もないだろう>
 心苦しく思って、それから()()なく手紙をお送りになる。
 紫の上ももう嫌なお顔はなさらない。
<私にはこんなにかわいらしい姫がいるのだから>
 とお許しになる。
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