嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして
プロローグ
 彼に惹かれる気持ちを止められない。好きになればなるほど、この幸せな結婚生活の終わりが怖くなる。
 またひとりになったとき、寂しさに押しつぶされてしまうに違いないから。

 だからあるべき姿に、ふたりの距離を適切にするつもりだった。それなのに。

「……だったらこういうのも、仕事だって割り切れる?」

 言葉の意味を理解する前にグイっと手首が引かれ、彼の顔が近づく。そこにある切羽詰まった表情に美琴(みこと)は目を瞬かせた。

「遥臣(はるおみ)さ――んっ」

 言い終わる前に大きな手が後頭部に回り、引き寄せられたと思った刹那、唇がふさがれた。
 混乱する美琴をよそに、遥臣は角度を変えて口づけを続ける。まるでこれまでずっとこうしたかったと伝えるかのように。

「……美琴」

 キスの合間に名前を囁かれる。その切ない声色に胸が痺れてどうにかなりそうだ。

「は、る……」

 こんなのおかしい。
 自分たちの結婚は離婚前提で、お互いのメリットのために夫婦を演じているだけなのに。

 わかっていても拒絶できないのは、もう引き返せないくらい、彼を愛してしまったからなのかもしれない。

 彼の唇を必死に受け入れながら、とうとう立っていられなくなった美琴は目の前の逞しい胸に手を伸ばした。
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