嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして
7.帰る場所
 台所でピーマンを切る美琴の横で、母がキャベツを洗っている。

「たまには顔見せてって言ったその日の内に、本当に帰ってきてくれるとは思わなかったわ」

「ごめんなさい。なんか急に思い立っちゃって」

「気にしなくていいんだぞ! いつでも突然帰ってきていいんだ」

 謝る美琴に向かって父がここぞとばかりに声を上げた。

「お父さん、美琴が帰ってきて嬉しいからってウロウロしたら邪魔ですよ。向こうでホットプレート出しておいてください」

 母に窘められ父はすごすごと居間のほうに退散していく。

 そんな両親のやりとりを見て美琴は目を細めた。


『たまには、顔を見せに帰ってきなさいよ』

 母から電話がかかってきたのは、遥臣からの陽菜の手術が無事終わったと知らせる電話を終えたすぐあとだった。

 いつもだったらうまく流すのだが、いい機会だと思いたちすぐ実家に向かうことにした。

 明日当直明けで帰ってくる遥臣のために食事を作り、“実家に行ってきます。夕方には帰ります。朝食は冷蔵庫に入れてあります”と書き置きも残しておいた。実家には一泊するつもりだ。
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