海に凪ぐ、君の名前
俺たちがたまたま降りたところは、江ノ島。
最後に来たのは確か、嵐が俺の家に来たばかり時だったか。
その時の記憶が鮮明に思いおこされて、口の片端があがる。
「行くぞ!」
「えっ、いやいや、どこに?」
俺は、彼女の腕から手に握り直して引いた。
駅からすぐの近くの橋に出る。そこは、夕日の明るさがさらに際立つ。
「ここ!」
江ノ島の海が見渡せる、小さい頃にお気に入りだった橋だ。
橋の入口に着いて、彼女の小さな手をぎゅっと握り直して、早足をやめてゆっくりと歩いた。
「…キラキラだ」
前に来た時は昼間だったけど、夕日でも綺麗だろうと思ったのが当たった。
今は、夕方の終わり頃。空が青とも茜とも言えない色で混じっている。
高いところにはもう星が見え始めていて、でも水平線上にはまだ真っ赤に熟れた太陽がギラギラとしている。
でと、なんといっても、
「海が綺麗だ」
夕日のマンダリンガーネットと空のオパール、海のアクアマリン。宝石箱みたいだ。
彼女はじっと見つめていた海から、目を逸らして俺を見た。
そして、また海に視線をもどして、俺より半歩先に出て口を開いた。
「君はほんとに私の事好きだね」
「はあ?」
急に何を言い出すかと思えば、なんだよそれ。
「江ノ島きて夕日とか、ロマンチスト」
たしかに、結構キザなことをしているかとしれない。
照れくさくなって、首筋に手を当てた。
焦っているのか手は冷たくて、火照った体にはちょうどいい。
「空、見ないの」
「え?」
なんと言えばわからなくて黙っていたら、彼女はぽつりと呟いた。
「君は空と海を見ると、海ばかり見るよね」
彼女のまっすぐと海を見つめるその横顔からは、何も読めない。
「あーなんでだろ。デカくて広くて、どこまでも続いてるように見えるのにひとつしかないとか、空も海も全く同じようで、全く違うような感じがするとか…うーん、上手く言葉に出来ないな」
「ほんと、口下手」
「うるさいな。お前みたいに、たくさん引き出しがある訳じゃないんだよ、こっちは」
「あはは、稚拙〜」
彼女は吹き出して笑った。
あの堤防の、彼女自身の笑顔だ。
そしえ、ひとしきり笑って、はあっと満足したような息をつく。
そのまま、満ち足りたような清々しい笑みを浮かべる。
「じゃあ、海が特別好きなわけじゃないのね」
目はすごく寂しいそうに細まる。
「いや、特別好きだよ」
半歩前を歩いていた彼女はふと足を止め、俺を振り返った。
彼女の影のある瞳に、一番星が現れるみたいにきらりと輝きを持った。
「いや、なんて言うかさ。空は常にみんなの上にあるだろ?でも、海は、そうはいかなくて。空の上は無限に広がってるだろうけど、海には必ず底があって。…うん、そういう所が好きだ」
「変なの」
「は?」
「普通逆じゃん。無限に広がってる方が未知で惹かれるじゃん。君は、ほんとに変だね」
彼女はまた前を向いて、半歩先を歩き始めた。
そんなに変なこと言っただろうか?
海と空のどちらが好きかなんて聞かれても、答えられない。
ただ、海が特別好きなのは、最近、海を見る機会が多いってだけだ。
(あ、ソラといえば…)
彼女の質問から、ふと記者の言葉が頭によぎった。
最後に来たのは確か、嵐が俺の家に来たばかり時だったか。
その時の記憶が鮮明に思いおこされて、口の片端があがる。
「行くぞ!」
「えっ、いやいや、どこに?」
俺は、彼女の腕から手に握り直して引いた。
駅からすぐの近くの橋に出る。そこは、夕日の明るさがさらに際立つ。
「ここ!」
江ノ島の海が見渡せる、小さい頃にお気に入りだった橋だ。
橋の入口に着いて、彼女の小さな手をぎゅっと握り直して、早足をやめてゆっくりと歩いた。
「…キラキラだ」
前に来た時は昼間だったけど、夕日でも綺麗だろうと思ったのが当たった。
今は、夕方の終わり頃。空が青とも茜とも言えない色で混じっている。
高いところにはもう星が見え始めていて、でも水平線上にはまだ真っ赤に熟れた太陽がギラギラとしている。
でと、なんといっても、
「海が綺麗だ」
夕日のマンダリンガーネットと空のオパール、海のアクアマリン。宝石箱みたいだ。
彼女はじっと見つめていた海から、目を逸らして俺を見た。
そして、また海に視線をもどして、俺より半歩先に出て口を開いた。
「君はほんとに私の事好きだね」
「はあ?」
急に何を言い出すかと思えば、なんだよそれ。
「江ノ島きて夕日とか、ロマンチスト」
たしかに、結構キザなことをしているかとしれない。
照れくさくなって、首筋に手を当てた。
焦っているのか手は冷たくて、火照った体にはちょうどいい。
「空、見ないの」
「え?」
なんと言えばわからなくて黙っていたら、彼女はぽつりと呟いた。
「君は空と海を見ると、海ばかり見るよね」
彼女のまっすぐと海を見つめるその横顔からは、何も読めない。
「あーなんでだろ。デカくて広くて、どこまでも続いてるように見えるのにひとつしかないとか、空も海も全く同じようで、全く違うような感じがするとか…うーん、上手く言葉に出来ないな」
「ほんと、口下手」
「うるさいな。お前みたいに、たくさん引き出しがある訳じゃないんだよ、こっちは」
「あはは、稚拙〜」
彼女は吹き出して笑った。
あの堤防の、彼女自身の笑顔だ。
そしえ、ひとしきり笑って、はあっと満足したような息をつく。
そのまま、満ち足りたような清々しい笑みを浮かべる。
「じゃあ、海が特別好きなわけじゃないのね」
目はすごく寂しいそうに細まる。
「いや、特別好きだよ」
半歩前を歩いていた彼女はふと足を止め、俺を振り返った。
彼女の影のある瞳に、一番星が現れるみたいにきらりと輝きを持った。
「いや、なんて言うかさ。空は常にみんなの上にあるだろ?でも、海は、そうはいかなくて。空の上は無限に広がってるだろうけど、海には必ず底があって。…うん、そういう所が好きだ」
「変なの」
「は?」
「普通逆じゃん。無限に広がってる方が未知で惹かれるじゃん。君は、ほんとに変だね」
彼女はまた前を向いて、半歩先を歩き始めた。
そんなに変なこと言っただろうか?
海と空のどちらが好きかなんて聞かれても、答えられない。
ただ、海が特別好きなのは、最近、海を見る機会が多いってだけだ。
(あ、ソラといえば…)
彼女の質問から、ふと記者の言葉が頭によぎった。