お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています
強制された警護
「……いったい何の用?」
スーツ姿で現れた紗良は、父の執務室に入るなり、苛立ちを隠そうともせずに言い放った。官邸内の重苦しい空気にも慣れず、彼女の視線は鋭く父を刺す。
「久しぶりだな、紗良。元気そうで何よりだ」
「社交辞令はいらない。で、本題は?」
椅子に深く腰を下ろした男――一ノ瀬財務大臣は、手元の分厚い封筒をトンと机に置いた。中から取り出されたのは、何枚もの脅迫状のコピー。紗良は眉をひそめ、黙ったまま見つめた。
「……ここ数週間で届いたものだ。俺に対してのものもあるが、最近はお前の名前も混ざっている」
「……私を盾に脅されるなんて、皮肉だね」
「紗良、これは冗談じゃない。何通かはお前の行動パターンを把握している内容だった。危険だ。SPをつける。——彼だ」
そう言って父が顎をしゃくった方向に、静かに立っていた男がいた。黒のスーツに鋭い眼差し、完璧に無駄を削ぎ落とした立ち姿。
「……橘さん、でしたっけ。父の影武者みたいなものでしたね」
「……少しは馴染みがあります。お嬢さんとは」
橘航太は微かに頷いた。かつて数回、任務の一環で彼女と接点があった。ただ、そのときも彼女の態度は今と変わらなかった。
「警護なんて、結構。私は巻き込まれたくないだけ」
「巻き込まれているんだ、もう。——頼む、紗良」
父の低い声に、紗良は唇を噛みしめた。すぐには返事をせず、橘に一度だけ視線を送る。
その目には、明確な不信と、僅かな諦めがあった。
スーツ姿で現れた紗良は、父の執務室に入るなり、苛立ちを隠そうともせずに言い放った。官邸内の重苦しい空気にも慣れず、彼女の視線は鋭く父を刺す。
「久しぶりだな、紗良。元気そうで何よりだ」
「社交辞令はいらない。で、本題は?」
椅子に深く腰を下ろした男――一ノ瀬財務大臣は、手元の分厚い封筒をトンと机に置いた。中から取り出されたのは、何枚もの脅迫状のコピー。紗良は眉をひそめ、黙ったまま見つめた。
「……ここ数週間で届いたものだ。俺に対してのものもあるが、最近はお前の名前も混ざっている」
「……私を盾に脅されるなんて、皮肉だね」
「紗良、これは冗談じゃない。何通かはお前の行動パターンを把握している内容だった。危険だ。SPをつける。——彼だ」
そう言って父が顎をしゃくった方向に、静かに立っていた男がいた。黒のスーツに鋭い眼差し、完璧に無駄を削ぎ落とした立ち姿。
「……橘さん、でしたっけ。父の影武者みたいなものでしたね」
「……少しは馴染みがあります。お嬢さんとは」
橘航太は微かに頷いた。かつて数回、任務の一環で彼女と接点があった。ただ、そのときも彼女の態度は今と変わらなかった。
「警護なんて、結構。私は巻き込まれたくないだけ」
「巻き込まれているんだ、もう。——頼む、紗良」
父の低い声に、紗良は唇を噛みしめた。すぐには返事をせず、橘に一度だけ視線を送る。
その目には、明確な不信と、僅かな諦めがあった。
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