「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。
 俺をイメージして書いたと言っていたが、この彼は俺がモデルなのか? まさか藍沢さんはあの夜、海浜公園で泣いていた彼女……。
 
 フラッシュバックのように次々と光景が浮かぶ。
 藍沢さんがシナリオに書いた通りのことが、現実の記憶として俺の中にあった。
 もうこれは、藍沢さんだと認めるしかない。
 全身が震え、鼓動が速くなる。こんなに近くに探していた彼女がいたなんて……。

 まさか、彼女はずっと俺だと気づいていたのか? だから俺にこのシナリオを?

 シナリオを読み進めると、彼の言葉で勇気を持てたヒロインが彼と再会するシーンで終わっていた。そして、ト書きに【再会した瞬間に彼に恋していることに気づく】とあった。
 
 胸が高鳴った。藍沢さんの好きな人は、もしかして……。
< 164 / 178 >

この作品をシェア

pagetop