私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

4.久しぶりのリュシアン様

***

 私は夢を見ていた。王宮でのことだ。


「い、痛いです! リュシアン様!」

「なら、さっさと歩け! この愚図!」

 不機嫌な顔をしたリュシアン様は私の腕を乱暴に掴み、有無を言わせず幽閉室まで引っ張っていく。すれ違う使用人たちは、戸惑い顔で私たちを見ていた。

 あれは十四歳の時だっただろうか。

 その頃には私は、もう何度も失態を犯してリュシアン様を怒らせてしまっていた。

 初めのうちは笑って許してくれていたリュシアン様も、私が失態を重ねる度に態度が冷たくなっていき、ついには王宮に専用の幽閉室まで作って失態の度に閉じ込めるようになった。

 幽閉室は真っ白で何もない寂しい空間だ。部屋には寝るための毛布一枚以外には何もない。天井は高く、手の届かない位置に窓があって、景色は見えずに光が差し込んでいるのだけが見える。

 またあの部屋に入れられるのかと憂鬱な気分になった。今度は何週間入れられるのだろう。

 殺風景過ぎるあの部屋で過ごさなければならないのはもちろん、あの部屋に入ったらリュシアン様の声すら聞けなくなってしまう。


「あの、リュシアン様、私は今回どのくらいあの部屋に入っていなければならないのでしょうか……」

「三週間だ」

「そ、そんなにですか……? もう少しだけ短く……」

「調子に乗るなよ。本来ならもっと厳しい罰を与えてもいいところを幽閉で済ませてやるんだ。それとも俺の婚約者をやめるか?」

「嫌です! それだけはお許しください……!」

 私が縋るように頼むと、リュシアン様は鼻で笑って足を速めた。

 幽閉室の頑丈そうな扉が見える。リュシアン様は音を立てて扉を開き、私を中へ突き飛ばした。バランスを崩して倒れ込むと、背中を思い切り蹴られる。痛みに小さく呻き声が漏れた。

「お前には本当に呆れた。ここまで愚かな女だとは思わなかったよ」

 おそるおそる顔をあげると、リュシアン様は氷のように冷たい目で私を見下ろしている。

「あ……」

「オレリアであれば、こんな愚かな真似はしないものを……。お前を婚約者に選んだのは失敗だったかもしれないな」

 リュシアン様はつまらなそうに言う。別の女性の名前を出され、私の胸はズキズキと痛んだ。

 オレリア様は、リュシアン様の言う通り私よりもずっと賢く、常識的で、何でもそつなくこなせる方だ。

 私などよりもずっと王太子の婚約者としてふさわしい方なのは、私が一番よくわかっている。


「リュシアン様、私……」

「お前の言葉など聞きたくない。そこでよく頭を冷やせ」

 リュシアン様はそう言うと、追いすがる私を無視して、乱暴に扉を閉じた。

 床に膝をついたまま、私はただ閉ざされた扉をじっと見つめる。

「リュシアン様……」

 部屋の中ですすり泣いても、頑丈な扉が開くことは決してなかった。


***


 目を覚ますと、カーテンの隙間から光が差し込んでいた。外がうっすら明るくなっている。まだぼんやりする頭で、さっきまで見ていた夢を反芻した。

「リュシアン様……。夢でいいからもう少し見ていたかったわ……」

 本当は笑顔の思い出を夢に見たかったけれど、リュシアン様が出てくる夢ならば殺伐としたものでも何でも構わない。


 もう少し眠っていたかったなと思いながら、ベッドから体を起こす。

 昨日は結局、廊下で女性の姿を見て部屋に閉じこもってから一度も外に出られなかった。

 もう一階のほかの部屋を調べる気にはとてもなれず、食事をしに降りるのも億劫だった。またあの女の姿が見えたらと思うと恐ろしくて。

 幸い部屋にはシャワールームもトイレもついていたので、一度も部屋を出ずに過ごしても問題はなかった。

 けれど、いつまでもこの部屋にとどまっているわけには行かないだろう。

 それにあれが幽霊だとしたら、この部屋だってちっとも安全地帯ではない。幽霊がどんなものかは知らないけれど、突然姿を消せるくらいだからドアなんて簡単にすり抜けられるはずだ。

 それでも私はお祈りのように何度も鍵がかかっているか見直してから眠りについたのだけれど。


 考え事をしていると、お腹が鳴った。昨日は結局、朝に黒パンと水を一杯飲んだだけ。さすがにお腹が空いてきたし喉も乾いた。

 けれどやっぱり外に出るのは怖くて、昨日食料を持ってきておけばよかったと後悔した。

 そういえば、昨日は一目散に駆け出して来たのでせっかく書庫から持ち出した本も廊下に放り出してきてしまったままだ。
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