私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
「本当ですか!?」

「ああ。だが勘違いするなよ。監視が目的だからな」

「ええ、ええ。構いません! リュシアン様のお姿が見られるなら!」

 ジスレーヌは鏡の前で両手を組み合わせ、歌うように言う。それからにこにこと鏡に手を触れた。

「リュシアン様、大好きですっ」

 夢見るような視線をこちらに向け、ジスレーヌは言う。城で会うたびに何度も言われてきた言葉だ。けれど離れた場所で聞くせいか、いつも聞き流していたその言葉がやけに胸に響いた。

 この女はお茶会で堂々と毒を盛るような危険人物だぞ、冷静になれ、と心が警鐘を鳴らす。

「俺は毒入り紅茶を飲ませようとする女など嫌いだ」

「うう……。そうですか……」

 ジスレーヌは表情を一転させ、悲しげにうつむいた。情けないことに俺は少々狼狽えてしまった。

「だからそこでしっかり反省しろよ」

「はい、一ヶ月乗り切って見せます!」

 ジスレーヌはまた笑顔になって言った。切り替えの早さについ笑ってしまう。しばらくは厳しい態度で接しようと思っていたはずなのに、いつもこうだ。

 危険人物なのはよくわかっているはずなのに、邪気のない笑顔を向けられるといつの間にか毒気を抜かれてしまうのだ。

「がんばれよ。おやすみ、レーヌ」

 そう言ったら、彼女はぱっと目を輝かせた。

 通信を切りたくない気持ちを押し殺し、鏡の前で手をかざす。鏡が光って、先ほどまでジスレーヌと屋敷を映し出していた鏡面に俺の顔と部屋が映し出された。

 通信が途切れる瞬間、笑顔で手を振るジスレーヌが見えた。


「やっぱり裁きの家に入れるのはやめておくんだった……」

 無意識にそんな言葉がこぼれた。

 またジスレーヌが馬鹿なことをしたとしても、次は王都の外に行かせるような処罰は避けよう。けがをする心配がなく、ほかの貴族たちに示しがつくような罰則を考えておいたほうがいいかもしれない。

 そんなことを考えながら、通信の切れた鏡をそっと撫でた。
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