私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
 扉を開けると、机の上の鏡にもう光がともっている。

(リュシアン様!)

 さっきまでリュシアン様のあんまりな仕打ちに憤っていたというのに、彼の姿を見られると思った瞬間、私は犬のようにしっぽを振って鏡の前に飛んでいった。

『ジスレーヌ、今日も生きていたようだな』

「リュシアン様! はい、今日も一日頑張りました。今日は薬草茶作りをしたんですよ。ほら、前に庭に生えているのを見つけたと言った薬草が乾燥し終えたので」

 私がそう言うと、リュシアン様は呆れ顔になる。

『……随分楽しんでいるみたいだな。そんな呪いの屋敷で』

「慣れればここもそんなに悪くありません」

『それは結構だが、ちゃんと反省はしたのだろうな。もう二度と毒を入れないと』

「それは……」

『なぜ即答できないんだ。本当に反省しているのか』

 私が言葉に窮していると、リュシアン様は顔をしかめた。不快な思いをさせてしまったことに申し訳なくなる。

 けれど、今後もリュシアン様がご令嬢たちと親しくする可能性がある以上、はっきりやらないと約束することはできないのだ。

 私はいくら反省しても、リュシアン様がほかの女性と仲良くしているのを見るだけで理性がどこかに行ってしまう。

 リュシアン様が今のように美しくなく、健康でもなくなれば、誰も見向きもしなくなるんじゃないかなんて、恐ろしい考えで頭がいっぱいになってしまうのだ。


「すみません、リュシアン様……」

「もういい。幽霊の幻覚を見たなどと言って相当追い詰められているようだから、反省しているなら早めに出してやろうと考えていたんだが。お前がそのような態度ではそうするわけにはいかないな」

 リュシアン様は苛立たしげにそう言う。幽霊が幻覚ではないこと以外は反論の余地もなく、私は顔をうつむけた。

 本当は私にだってちゃんとわかっている。

 調査も何も、方法が証言と違うだけで、毒を入れたのは私。いくつも前科のある私をリュシアン様が疑うのは当然のことなのだ。


「そうですよね。私、ちゃんと反省します……。今日は早めに通信を切って、自分を省みようと思います」

 しょんぼりとそう言って鏡に手をかざし、通信を切ろうとすると、リュシアン様は急に慌て顔になった。

「あ、おい! ちょっと待て! まだ通信し始めたばかりだろう。一日十分の約束だったではないか」

「けれど反省もちゃんとできない私が、リュシアン様に十分間も時間を使ってもらうのは申し訳ないですわ……」

「確かに俺はお前のような愚かな女に時間を使っている暇はない。しかし、約束は約束だ」

「まぁ、なんと慈悲深い……! では、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」

 私がそう言うと、リュシアン様は明らかにほっとした顔になって「仕方ないからな」と言った。


「それで今日は薬草茶作りをしたんだったか。うまくできたのか?」

 リュシアン様は少し声を和らげて言う。私は嬉しくなって元気に答えた。

「はい、蝶のような形をした青い薬草を使って作ったんですが、とてもおいしくできました。お茶は綺麗な青色をしていて」

『ふぅん。珍しいな』

「リュシアン様にも帰ったら茶葉を差し上げますね。瓶に詰めてあるので!」

『いらん。お前から渡された飲食物など怖くて口に入れられない』

 リュシアン様は顔を引きつらせて言った。

「で、でも、おいしくできたんですよ。綺麗に瓶に詰めてリボンをかけたんです」

『いらないと言っているだろう。どうしてつい最近毒を盛られた女から渡された茶など飲まなくてはならないんだ』

「そ、そうですよね……。私、調子に乗っちゃって……。申し訳ありません……」

 しゅんとしながら謝ったら、リュシアン様はむすっとした顔で言う。

『……仕方ないな。じゃあ、お前が先に飲んで毒が入っていないと証明しろ。それなら飲んでやってもいい』

「まぁ! 飲んでくれますの? それに、私と一緒にお茶してくれるんですね! 嬉しいですわ。そのときは、ほかのご令嬢は呼ばないでくださいね!」

『おい、調子に乗るな』

 リュシアン様には呆れ顔をされてしまったけれど、私はその言葉が嬉しくて堪らなかった。
< 36 / 78 >

この作品をシェア

pagetop