私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
 今回のお茶会でも、犯人はあいつだということはすぐにわかった。

 あいつと一緒にいるときにものを口にする際は気をつけていたのに、今回はほかにも人がたくさんいるのだから馬鹿なことはしないだろうと油断してしまった。

 どんどん朦朧としてくる意識を何とか保ち、じりじり手足に広がっていく痺れに耐える。大分腹が立ってはいたが、大事にするのは避けようと思った。

 けれど最近は疲れが溜まっていたためか堪えがきかず、つい意識を手放してしまったのだ。


 部屋には役人も医者も来てしまい内密に済ますのは難しくなった。

 その上、他の令嬢に話を聞いたら、彼女たちはジスレーヌが毒を入れるところまで見ているという。これでは隠しようがない。

 人の大勢いる場で毒を盛るなんて、前々から愚かだとは思っていたけれど、思っていた以上の馬鹿だったらしい。

 そういうわけで、今回は王宮内に閉じ込めるだけで済ますのは難しく、ジスレーヌを「裁きの家」に送ることになったのだ。

 王宮へお茶会に参加した令嬢を全員集めた日には、役人がいつ今回の件を詳しく調べると言い出さないかと本当にひやひやした。

 それで役人の言葉を遮るように、令嬢の一人が裁きの家に送ったらいいと提案するのに任せて強引に押し切ったのだ。

 これでも正式に牢獄に入れられたり、身体的な罰を与えられたりすることがないように考慮したのだから、ジスレーヌは俺に深く感謝するべきだと思う。


 しかし、それだけひどい目に遭わされてもなおジスレーヌを見限る気になれない俺は、あいつ以上に馬鹿なんだろう。

 俺があいつのやったことを隠し通す度に、事情を知る部下には苦い顔をされる。

 幼い頃から俺に仕えるトマスになんて、「一刻も早くジスレーヌ様の凶行を陛下や王妃様にお伝えしましょう」と何度勧められたかわからない。

 俺はこれからもあいつが何をやらかそうが、最終的には許してしまうのだろう。そう思うと、深い溜め息が出た。

 オレリアのようにジスレーヌよりずっとまともで良識のある令嬢と婚約していたら、こんな風に振り回されることもなかったのだろうか。


「リュシアン様、少しよろしいでしょうか」

「なんだ、入れ」

 そんなことを悶々と考えていると、扉の外からトマスの声が聞こえてきた。入るように促すと、複雑そうな顔で中へ足を踏み入れる。

「リュシアン様、先ほどルナール公爵家から使いが来ました。今度リュシアン様にお聞きしたいことがあると……」

「叔父上が?」

「はい、実はジスレーヌ様の件で詳しく話を聞きたいようで……」

「あー……。とうとう来てしまったか……」

 トマスの言葉に俺は頭を抱えた。予想はしていたことだ。自分の所有する屋敷に甥の婚約者を幽閉するよう依頼されたのだから、気にしないはずがない。

「わかった。叔父上には今週末にでも時間を作ると言っておいてくれ」

「承知しました」

 トマスはうやうやしく頭を下げて去って行く。

 俺は叔父上にあったらなんと言い訳しようかと考え、再び深いため息を吐いた。
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