私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
「話は変わりますが殿下、一つ頼みたいことがあるのです」

「なんでしょう?」

「実は、オレリアは今日が誕生日なんですよ」

「ああ……。そうでしたね」

 すっかり忘れていた。今日はオレリアの誕生日だったのだ。ご機嫌取りに何か持ってくるべきだっただろうかと後悔する。

 俺は、黙って微笑みながら話を聞いていたオレリアのほうに顔を向けた。

「何も用意していなくてすまない。誕生日おめでとう、オレリア」

「ありがとうございます、リュシアン様。もう、お父様、リュシアン様に気を遣わせてしまったじゃありませんか」

 オレリアは叔父上のほうを見て頬を膨らませる。叔父上は軽快に笑った。

「すまないすまない。けれど、誕生日だと言ったら殿下も頼みを聞いてくれるんじゃないかと思ってね」

「頼み?」

「リュシアン殿下、オレリアがあなたと出かけたいと言うのです。今日だけでいいので付き合ってやってくださいませんか」

「……え」

 突然の頼みに戸惑ってオレリアのほうを見ると、オレリアは柔らかな笑みを浮かべて少し首をかしげながら言った。

「突然ごめんなさい、リュシアン様。けれどどうしても誕生日にリュシアン様との思い出が欲しくて。駄目でしょうか?」

「いや、駄目ではないが……」

 そう答えながらも、頭にはジスレーヌの顔が浮かんでいた。オレリアと二人で出かけたりなんかしたら、あいつは怒るだろう。

 面と向かって文句を言われるならまだいいが、あいつのやり方はもっと陰湿だ。一体何をしでかしてくるか想像したくもない。

 けれど、ここは叔父上の機嫌をあまり損ねないほうがいいかもしれない。叔父上の判断で毒入り紅茶事件を詳細に調べられたら終わりだ。

 だいたいこんな風に追い詰められているのも、全てあいつのせいなのだ。文句を言われる筋合いはないだろう。

 俺はしばらく逡巡した後、言った。


「……わかった。どこへ行きたいんだ? オレリア」

「まぁ、聞いてくださいますの?」

「ああ、お前の行きたいところへ付き合う」

 答えると、オレリアは頬に手を当てて嬉しそうに笑った。横で叔父上も笑みを浮かべてそんなオレリアを見ている。

 仕方ない。今日一日だけだ。無難に終わらせて、二人の機嫌を取っておこう。

 笑顔の二人を見ながら、俺はそう決意した。


***

 オレリアに引っ張られるように、公爵家の馬車へ乗り込んだ。オレリアが選んだ行き先は街を少し外れた場所にある小さな森だった。

「リュシアン様、この近くには自然がたくさんあるんですよ。きっとリュシアン様も癒されるはずです」

「そうか。それはいいな」

「私、小さい頃はセルジュお兄様とよくここへ遊びに来たんです。最近はお兄様、お忙しいみたいで誘ってもなかなか来てくれませんけれど……。でも、とっても過ごしやすい場所ですからリュシアン様にも見て欲しいですわ」

 オレリアはそう言って、いつもより少し幼い笑みを浮かべる。

 オレリアは隙のない奴だけれど、兄のことを話すときだけは少し気が抜けるように見える。オレリアの母は彼女を出産したときに亡くなっているし、叔父上も忙しい人だから、兄に特別情を感じるのかもしれない。
< 63 / 78 >

この作品をシェア

pagetop