失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「でも奥さま、大変でしょう? 光輝さんの職業柄、家では仕事の話はしないでしょうし、なにかと緊張がつきまとう仕事ですから、旦那さんをうまく支えてあげるのは」

 あなたには無理だ、と遠回しに言われているのが伝わってくる。さすがになにか返そうと口を開こうとしたら、先に光輝さんが唇を動かした。

「余計なお世話ですよ。あなたが心配することじゃない。妻とふたりで過ごす時間をこれ以上、邪魔しないでもらえますか? 今はプライベートなので」

 光輝さんが冷たく返すが、千恵さんは顔色ひとつ変えない。それどころか微笑みを浮かべた。

「失礼しました。貴重なお時間ですものね。そうそう。前にお渡ししたチョコレートはいかがでした?」

 チョコレート、の言葉に私は目を見開く。千恵さんは光輝さんにチョコレートをプレゼントしたのか。彼女も光輝さんの好みを知っているんだ。

 胸がぎゅっと痛くなる。たったそれだけのことに、なにを動揺しているのか。でも、もしも千恵さんからもらったとしたら、それはいつだろう? 結婚する前?

 どっちみち光輝さんは断らずに受け取っている。あたり前だ、上司の娘さんなら無下にできるわけがない。

 でも、光輝さんが家に持ち帰ったり、食べていたりしているのを私は知らない。

 光輝さんはなんて答えるのか。彼に視線を送ると、彼がなにか返す前にスマホが音を立てた。プライベートのものではなく、光輝さんの仕事用のものだ。
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