隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)
「重っ!」
隠したところで根掘り葉掘り聞かれるのだろう。
だから潔く話したのに、妹はあからさまに引いていた。
「じゃあこの二年間。ずっと花咲さんを好きだったのに、見てきただけ?」
「ああ、そうだ。まぁ、彼女を好きになったとかいう同僚には、こっそりと違う人を勧めておいたけど……」
「うわぁ」
「うわぁ、ってなんだ。聞いておいて、引くな」
両腕をさすっている世羅を睨む。
「だってぇ、引くでしょ。それに、その間ストーカーみたいにして花咲さんのこと見てきたんでしょ?」
「……バレないようにしている」
「バレたらその時点で終わりよ。いくら玲兄の顔が良くったって許されないことだってあるんだから!」
ビシリと指を突き立てられ、苦々しい思いでワインを口に運ぶ。
「お前ならもっと上手く籠絡できるだろうに」
「ええ。他の女性であればきっとできると思います。けれど、花咲さんは違うんです」
「違う、とは?」
「他の女性なら失敗したところで、なんとかなる。だけど、花咲さんには絶対失敗したくない! その思いが枷になっているのか……彼女を前にすると上手く口が回らない。いつも後手な対応になってしまう」
「玲兄。マジじゃん」
「そうだよ。最初からそう言っているだろう。じゃなきゃ今日だってあのホテルに行くものか」
「そもそも、玲兄はどうしてあのホテルでお見合いをすることを知っていたの?」
「…………調べた」
観念して白状すれば、今日一番の絶叫が響き渡る。
「はぁ? やっぱり怖いんですけど!」
「仕方ないだろう。彼女がお見合いするって聞いて、必死だったんだ」
やましさから、俯いて反論すると兄が口を開いた。
「彼女のことを調べたのは今回が初めてか?」
「それは……」
初めてじゃない。
彼女の母親が見合いを持ちかけようとしていたのは知っていた。それに焦った僕は花咲さんと同じ電車に乗って、自分の存在をアピールしてみた。
(柔らかかったよな)
電車が揺れて、彼女を抱き止めたことを思い出す。
初めて触れた花咲さんの身体は僕の腕にすっぽりと収まって、少し彼女が身じろぎすれば甘やかな良い匂いがした。
それを思い出すだけでニヤケそうになる。
「玲。お前ももうすぐで二十八だ。結婚相手を決める『期限』が迫ってきているだろう?」
「分かっていますよ」
二十八までに結婚相手を選ばないと、強制的に結婚させられる。
昔はそれで良いと思っていたけれど……今は花咲さんと結婚したいと願っている。
独りよがりの恋ではあるけれど、諦めるつもりはなかった。