隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)
彼の告白は保留になった。
会社に行く時間が迫ってきていると言って、返事をうやむやにしたからだ。
(こんな人間が『誠実』だなんて……)
過大評価が過ぎる。彼に借りたシャワーを浴びながら考える。
(それにしても、どうしてわたしなんだろう?)
誠実な人間なんて沢山居る。
なのに、なんでわたしを選んだのか。
自分に自信がなくて、返事を躊躇ってしまった。
(ちゃんと答えなきゃ……)
そう思いながら、シャワーを止める。
彼が誠実なのは分かっているつもりだ。けれど桐山くんを意識したのはここ最近のことだ。今まで会社の同僚としてしか見てこなかったからこそ、彼と恋人になることが想像できない。
(……まして結婚だなんて)
考えながら身体を拭く。真っ白なタオルはふかふかで触っているだけで気持ちが良かった。
髪を乾かした後に、彼が用意してくれた妹さんの服を借りると、自分以外の服を着るのはなんだか新鮮で、何度も鏡を見返す。
(ブラウスとスカートのシンプルなものだから、違和感はないはず)
最後に前髪を整えて、ダイニングに戻る。
「お風呂ありがとう。それに着替えも……」
「いいえ。気にしないでください」
「クリーニングして返すから」
「大丈夫ですよ」
「でも……」
それはさすがに悪い。そもそも自分の服を勝手に着られるのも嫌かもしれない。
(こんなことなら一度家に戻ったら良かったかな?)
呑気に朝ごはんを食べていないでそうするべきだったのだろう。
言い募ると、彼は気まずそうに目を逸らした。
「すみません、桃子さん」
「ん?」
「嘘です」
「嘘、って……?」
「本当はその服。妹のショッピングに付き合った時に桃子さんに似合いそうだと僕が買った服です。だから、そのまま貰ってくれると嬉しいんですが……」
「……え」
目を丸くして彼を見れば、あからさまに目を逸らされた。
「すみません。気持ち悪いですよね。やっぱり妹の服を見繕ってきます!」
気まずそうに謝ったかと思うと、彼は勢いよく部屋を出て行こうとする。それを止めたのはわたしだ。
「ううん。その、びっくりしただけだから……お洋服もあって助かったよ。ありがとう」
わたしの言葉に彼は戸惑いながら、こちらを見る。
「本当ですか? その気持ち悪くないですか?」
「うん。気持ち悪いとは思っていないよ」
本当に不快感はなかった。けれど、もしも彼以外にそんなことをされていたら……?
(それは、嫌かも……)
どうして桐山くんは良くて、他の人は駄目なのか。
自分が想定しているよりも、わたしは彼を受け入れているのかもしれない。
「でも、タダで貰うのは悪いから今度何かお返しさせて」
「それって……」
「うん?」
「僕がまた桃子さんの服を買えば、永遠と桃子さんと交流できるってことですか?」
「いや、違うよ?」
目をキラキラさせて輝いているけれど、とりあえず落ち着いて欲しい。