先生、それは取材ですか?
「……あの」

橘が、そっと言葉を返す。

「ん……?」

「……先生、それは“取材”ですか?」

「……は?? 今そういう空気だったでしょ絶対!?」

「いや、確認です。先生が僕のこと“ずっと好き”って言ってた、その気持ちをですね、詳しく取材させてほしいなって。照れの描写込みで」

「殴っていい?」

「甘めのトーン指定でお願いします」

「おまえなあぁ……!」

私は真っ赤になりながら、目の前のクッションを掴んで思い切り橘に投げた。
橘は避けずに受け止めて、笑いながらそれを膝に抱いた。

「……でも、うれしかったですよ。ほんとに」

「……うん」

「だから、僕もちゃんと返します。僕も——“ずっと好きでした”。最初から、たぶんずっと」

私は、照れたように、でもどこか安心したように、肩の力を抜いた。

「……なんかずるいな、それ。急に優しいトーンで言うからさ……」

「先生が先に照れさせたんですよ」

「……こっちは、勇気出して告白したんですけど」

「はいはい、立派でした。めちゃくちゃかわいかったです」

「……もっかい殴っていい?」

ふたりの声が重なって、アトリエに小さく笑いがこだまする。

静かな深夜に、ふたりだけの物語が、もう一つ始まっていた。
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