この世界からきみが消えても
「何か……嫌になってくるね」
事件を解決して欲しい、とは確かに思う。
莉久をこんな目に遭わせた犯人が誰なのか、その目的が何なのか、知りたい。
そのためにああいうフラットな目が必要なのかもしれないけれど。
だからって、簡単に割り切ったり開き直ったりできるほど強くはなれない。
「でもさ、紗良ちゃんが顔見せてあげれば莉久も目覚ますかもしれないし」
「それなら昨日の時点でそうなってるよ」
励ましてくれる西垣くんに、すげない態度を自覚しつつもそう返してしまう。
感情の整理がつかないせいで、気持ちの半分がふてくされていた。
「……じゃあ、また」
困ったように口をつぐんだ彼に背を向けると、ほどなくして呼び止められる。
「紗良ちゃんは……ちがうよな?」
みなまで言われなくても、何を尋ねているのか察しがついた。
振り向いて彼の顔を見やり、正解だったのだと悟る。
「……わたしが刺したって言いたいの? 莉久を、殺そうと?」
衝撃の中に動揺が混ざって不安定な声色になった。
だけど、西垣くんは真剣な眼差しを突き刺したまま無言で続きを待っている。
殺人事件の90パーセント以上が顔見知りによる犯行。
そんな正木さんの言葉に引っ張られているのかもしれない。
中でも恋人や友人は筆頭候補になるだろうから。
ひとの気持ちを顧みない、懐疑的な正木さんの双眸と重なって、後発的に怒りが湧いてきた。
顔は熱いのに手足の先が冷たく硬直していくような錯覚を覚える。
「ふざけないで」
強気に返したかったのに、言い終わらないうちに泣きそうになって声が震えてしまう。
素早くきびすを返すと、滲んだ涙を指先で拭って病院をあとにした。
家に帰り着くと、玄関のドアを閉めた瞬間に限界を迎えた。
堰を切ったように涙があふれ出す。
ずるずると背中を滑らせてうずくまる。
悲しいのか腹立たしいのか、あるいは両方なのか分からないまま咽び泣いた。
唐突に莉久との時間を奪われたわたしは、彼自身と同じく被害者という立場にあるはずだった。
言いがかりにも似た疑惑を向けられる筋合いなんてない。
それでも、犯人にたどり着くためには、真相を紐解くためには必要なことだと受け入れるしかないのだろうか。
(どうしてこんなことになっちゃったの……)
何度目か分からない、そして答えの出ない問いを繰り返す────。