ページのすみで揺れていたもの
ここからすべてが始まった
遠くで、サイレンの音がしていた。

ひとつだけじゃない。いくつも、重なって響いている。

その向こうで、誰かの叫び声。
金属が軋むような音。車のクラクション。

ぼんやりとした頭に、それらの音がざわざわと流れ込んできた。

次第に鼻の奥がつんと痛くなる。
焦げたようなにおいと、ほこりっぽい空気。

ゆっくりと、まぶたを開けた。

灰色の瓦礫、砕けたガラス、傾いた車体。
あちこちで人の声が飛び交っている。

目の前の光景が、現実なのか夢なのか、すぐには判断できなかった。

でも、

「……事故……?」

かすれた声が、喉の奥から漏れた。

腕が痺れていて、体が重たい。

少しだけ顔を動かして、周囲を見渡す。

瓦礫の隙間から、誰かが手を伸ばしていた。
車の中に閉じ込められた人、動かない誰かの肩を揺さぶる人。
血まみれの服を押さえて座り込む人。

誰かが「助けて」と叫んでいた。
小さな子どもが泣いていた。
名前を呼ぶ声も、泣き声に混ざって響いていた。

ここには、私ひとりじゃない。
そして私だけが、動けなくなっているわけでもない。

——誰かが、助けを待っている。

その想いが、じわじわと胸の奥を満たしていく。
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