隣の部署の佐藤さんには秘密がある
「健斗、ウイスキ~」
「来てくれることになったのか?」
「来るでしょ。」

 健斗は違和感を感じた。スマホを握りしめたまま固まっていたはずなのに、急に自信満々だ。この感じは見たことがある。

 かつて、女に追われて健斗の店に逃げ込んでいた晃太は、店にいると女性を引き寄せてしまうからと開店前には店を出ていた。しかし何度か開店後も居座り続けていたことがある。

「いいのか?このままここにいたら、声かけられるぞ?」
「平気。相手呼ぶから。」

 晃太はウイスキーを飲みながら適当に片手でスマホを操作した。するとものの数秒で女性がやってきた。仲良さげに話しているのを見て普通に飲める相手もいるのかと安心していたのも束の間、晃太は女性の話を聞き流しながらスマホを操作し始めた。

「あー、ごめん。もう時間ないんだよね。じゃあね。」

 女性が1杯飲み終わる前に半ば強引に店から追い出し、その数秒後に別の女性がやって来た。そしてまた女性が飲み終わる前に追い出して、次の女性を呼ぶ。そんなことを何度も繰り返していた。女性たちは不満気で、帰りたくないのに帰らされていた。

「お前が呼んだんだから追い返すなよ。」
「一緒に飲みたいって言う人を順番に呼んでるんだ。長く飲んでたら捌けないじゃん。」

 女性を取っ替え引っ替え呼び出しているが、その理由は遊びたいからではなく、相手の要望に応えたいからだった。チャラいのか律儀なのかよくわからなかった。

「会いたいって言って来るんだから、会って終わりでいいでしょ。」

 会いたいと言われたら女性側は色々と考えているだろうが、晃太は本当に会うだけにしている。そうやって女性たちを勘違いさせるから追いかけ回されるのだ。健斗は呆れたが、律儀に相手の希望を叶えようとする晃太の中にある真面目さ気づいた。だが──

「『会いたい』って送ったんじゃないよな?」
「そうだよ。」

 さも当たり前のように言い放つ晃太を見て、健斗は大袈裟にため息をついた。

「お前な、大切な彼女なんだろ?適当に呼び出していた女と同じ扱いで良いのか?」

 前髪で顔は見えないけれど晃太は顔面蒼白になっているように見えた。

「ど、どうしよう!送っちゃった……!」
「気を抜くな。そういうことしてると愛想尽かされるぞ。」

 晃太は項垂れた。タイミング良くさきから連絡が来たことに浮かれてしまった。

「癖ってのは抜けねぇもんだな。ははは。」
「どうしようどうしようどうしよう……どうしよう!」

「落ち着け。まずは、今日どんな撮影をしたか簡潔に説明する。それから撮影が終わったからBARにいるということを書いて、今日の写真を見せたいから会いたいんだけど、今からBARに来られるか?それを送って返信を待て。」
「……わ……わかった……」

 晃太は大いに反省し、健斗に言われた通り、丁寧に文章を作成し、何度も文章を読み直して間違いがないか確認すると、緊張した面持ちで送信した。
< 67 / 120 >

この作品をシェア

pagetop