隣の部署の佐藤さんには秘密がある
『しばらく準備があるので、早く行くことになりました。一緒に行けなくてすみません。』

 さきが早めに出勤するようになり、晃太は1人で出勤することになった。いつまで早く行くのかと聞いても、さきにもわからないという。

 早くあがれそうな日があればすかさず連絡をしたが、そんな日はさきが残業。朝から残業が確定しているような忙しい日に限って、さきは早く上がれているようだった。日中に顔を合わせても、挨拶程度しか言葉を交わす時間がない。日に日に寂しさが募り、胸が苦しくなる一方だった。

「健斗、寂しくて死ぬって本当かもしれない……」
「はいはい。」

 健斗は晃太の前に烏龍茶を置いた。

「彼女も忙しいのか?」
「うん……なんかお互いに忙し過ぎて全然会えないんだ。朝、一緒に出勤してたのにそれもできなくなって、会社で会っても挨拶しかしないし……連絡するのもなんか申し訳ないって思えて……付き合ってるのかわからなくなってきた。」
「休みがないもんな。」

 そうだ。それもこれもモデルの仕事をしているせいだ。平日会えなくても、土日に会うことができれば、こんなに寂しい思いをしないで済む。

「もうやめようかな……」
「辞められるのか?こんなに大々的に出てんのに。」

 健斗はKOTAが表紙の雑誌を広げた。

「あーやだやだ、しまってよ。」
「もったいない気がしちまうけどな。」

「元々クロードだけの予定だったし、普通に大変なんだよね。ほとんど寝ないで出勤しなきゃいけない時もあるしさ。このままじゃ、デートする日がないもん。レセプションにも行けなくなりそうだよ。」
「レセプションは厳しいんじゃないか?」
「どうして?」
「お前と歩いてたら目立つ。辛いと思うぞ?色々言うやつがいるからな。彼女として相応しくないとかなんとかって……」

 以前のレセプションでもあーだこーだ言ってる奴がいた。顔が知られた今は、もっと増えるかもしれない。

「あーあ。やんなきゃ良かったー」
「けど、じいちゃん孝行にはなったんだろ?」
「そうだね。それだけは良かった。」

 祖父は自分のモデルの写真を楽しみにしてくれている。元気になった今では、送った写真に対して評価やアドバイスをくれる。祖父の反応を見ているとモデルをやって良かったと思える。

「じぃちゃんは満足してくれたと思うし、姉ちゃんにどうしたら辞められるか聞いてみようかな。」
「そうだな。親父さんとこ行く前に外堀を埋めろ。」

 晃太が烏龍茶を傾けていると、店の扉が開いた。
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