二人で恋を始めませんか?
 「優くん、関西に送る荷物、ダンボールに詰めていくね」
 「そんなことはいい。こっちにおいで、茉莉花」
 優樹は茉莉花の手を引いて、ソファに座らせた。後ろからギュッと抱きしめられ、茉莉花は優樹の愛情を感じて心がじわりとしびれる。優樹の腕に手を重ねると、その温もりに力をもらって口を開いた。
 「優くん、あのね」
 「うん、なに?」
 耳元で優しく聞こえる愛しい人の声。自分がこれから何を言おうとしているのか、自分でも分からない。でもこれだけは確かだ。この人は、たった一人の愛する人。
 「私、優くんに出会って、優くんに好きになってもらって、すごく幸せになれた。あなたと結婚して、これからの人生を一緒に歩めることが嬉しくて、ただ幸せで……。でもね、私、あなたといることで弱い人間にはなりたくないの。あなたが好きになってくれた私でいたい」
 優樹はじっと押し黙ってから話し始める。
 「俺が好きになった茉莉花は、いつも周りを思いやって仕事にも一生懸命打ち込む、真っ直ぐで心が温かい人。頼んだことを『もちろんです』って微笑んで引き受けてくれる。そんな茉莉花だから、鎌倉のカフェやアプリ開発の仕事でも喜ばれた。ありがとうと感謝されて輝くような笑顔を浮かべる茉莉花に、俺はいつの間にか心惹かれていたんだ」
 それが答えだ。二人が出した、二人の答え。
 部屋で一人寂しく優樹の帰りを待つ茉莉花と、そんな茉莉花を心配して気が気ではなく急いで帰る優樹。それは本来の自分たちではない。この先も、二人が二人らしく生きていくには……
 茉莉花は優樹を振り返った。
 「優くん、私、ここに残ります」
 「ああ、分かった」
 静かに二人は微笑み合う。そして互いをギュッと抱きしめ合った。
 「優くん、電話やメッセージ送ってもいい?」
 「いつでも待ってる。俺からも電話する」
 「寂しくなったら、会いに行ってもいい?」
 「もちろん。真夜中でも電話して。車飛ばして帰って来るから」
 「えー、何時間かかるの? それなら始発の飛行機に乗った方が早くない?」
 「……確かに」
 「ふふっ、優くんって案外詰めが甘いのね」
 「なんだと!?」
 あはは!と笑う茉莉花を、優樹は優しく見つめる。
 「茉莉花。どんなに離れていても、いつだって俺の心は茉莉花のそばにある」
 「私もです。どんな時も、あなたのことを想っています」
 幸せと寂しさと、切なさと愛おしさと。混ざり合う色んな気持ちを抱えながら、二人は愛を込めてキスをした。
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