私を忘れた彼を やっぱり私は忘れられない
男性があまりにきっぱりというので
幸は目を丸くして声をあげて
笑ってしまった。

びっくりしたのか馬がピクッとして
幸に顔を寄せた。

幸は嬉しくて、

「ごめんね。大きな声を上げたから
びっくりしたよね」

そういって馬の鼻を撫でた。

「ユキさんすごいですね。初めてとは
思えないですよ。全然怖くなさそうだ」

「こんなに優しい目をしたこの子が
怖いわけないわ」

そういって優しく微笑んだ。

スタッフの男性はちょっと息をのんで、
顔を赤らめた。

「後で馬上のシーンも撮ると言ってたので
その後少し乗ってみますか?」

「えっ、いいんですか?ぜひ乗って
みたいです。乗せてもらってもいいかな?」

幸は馬に顔を寄せて囁いた。

馬は黒で、毛並みが奇麗だ。

顔の真ん中にひし形の白い模様があって
きりっとした印象のハンサムな馬だ。

さすが写真撮影に連れてこられるだけ
あって容姿が整っている。

その上優しい目をした気持ちも優しい子
なんだろうと思った。

「この子の名前はレオンと言います。
オスの7歳馬です。人間で言うと36歳
くらいですね。男盛りですかね」

「そうなの。レオン、私は幸よ。
今日はよろしくね」

「えっ、ユキさんじゃなくて?」

「ウフフ、ユキは芸名で本当は幸なんです」

「そうなんですか、でも幸さんのほうが
ぴったりですね」
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