世界を救う予定の勇者様がモブの私に執着してくる



 ある日、いつものように目を覚ませば、この世界にきていた。


 見知らぬ場所、見知らぬ人々に見慣れぬ格好……最初は何かのコスプレか?と思ったが、どうやらこれが巷で流行りの異世界転生というやつだと気がついた。


 そして、この世界で過ごしていくうちに、何となくここが前世で読んでいた漫画の世界に似ていることにも気がついた。


 舞台は剣と魔法の国。
 魔物が侵略してくるようになった世界で、チート級のステータスをもつ勇者様が可愛いヒロインと協力しながら世界を救う話で。


 結末としては、全ての魔物を統べる魔王を倒して、世界に平和をもたらした勇者様がヒロインと結ばれてハッピーエンド……とまあ、よくある展開。


 そして、私はその中の序盤に出てくる村に住んでいるモブに転生した。


 本音を言えば、ヒロインがよかったなとは思った。だけど、魔王と闘うのは怖いし、勇者様を巡ったいざこざに巻き込まれるのも嫌だし、ある意味モブでよかったのかもしれない。


 そう思って、モブらしく道具屋で働きながら平凡で平和な日常を過ごしていた、あの時までは。


「………勇者様が?」
「そう、勇者一行がこの村に来てるんだって!そこの宿屋に泊まってるって、昨日マリアが言ってたよ」


 興奮した様子で話す店主をよそに、私は苦笑いを浮かべる。
 村人が少ない分、話が回るのが早いな……この様子では明日には、勇者がどんな寝巻きを着ていたかまで広まりそうだ。


「うちにも寄ってくれたらいいけど、どうだろうね」


 ため息まじりに言う店主に相槌をしながら、私はそれは無理だろうなと考えていた。
 あいにくうちのような弱小な道具屋には、勇者様が扱うようなものは置いていない。


 せいぜい、回復ポーションぐらいだけどあのチート勇者様には必要ないだろうしなぁ…

「まあ、来てくれたらラッキーぐらいに思っとこう! よし店開けるか!」

 
 そう言って豪快に笑う店主。
 彼のこういう所は尊敬できる。ちょっと酒癖が悪いのが難点だけど…


 店主の言葉で私も急いで開店の準備をした。

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