突然彼女に「婚約破棄していい?」って言われたんですが



「ねえ……婚約破棄していい?」


 ある日、俺がスマホゲームに集中していると、さとみが言ってきた。

「は……え?な、なんで?」

 俺は突然のことに驚き、手に持っていたスマホを床に落とした。

「なんでって……いや、もうダメでしょ」

 1ヶ月前、俺は恋人のさとみにプロポーズした。さとみは嬉し泣きしながら、俺のプロポーズをオッケーしてくれた。
 ……確かに、結婚式の準備やらで、ちょくちょく言い合いみたいなものはしたりしてるけど、婚約破棄されるほど大喧嘩した覚えはない。

「ダメって……そんな突然……」
「へ?いや、前から言ってるじゃん。なかもう無理っぽいって」

 そんなこと言ってたっけ?俺、何で覚えてないの?もしかして、俺が酔ってた時にさとみはそんなこと言ってたのか?てか……婚約破棄って。もうダメって……なんだよ。何でだよ。
 俺は膝から崩れ、床に四つん這いになった形で絶望した。

「……何?龍生が悪いんでしょうが。何でそんな絶望してるの?」
「悪いって……俺……俺、なんで……」

 突然の強いショックに、俺はうまく話せなくなってしまった。

「そこまでショック受けること?とにかくまあ、もう無理みたいだから」

 そう言ってさとみは、くるりと俺に背を向けた。俺は慌てて立ち上がり、後ろからさとみに抱きついた。

「……っ!待って!お願い、捨てないで!!」
「へ!?いや、どんだけ嫌なのよ!新しいの探せばいいでしょ!?」
「嫌だ!!新しいのじゃ嫌だ!お願い、捨てないで!!!謝るから!!お願いだから捨てないでくれーーー!!!」
「なんなのもう!あーもうわかったわよ!!じゃあどうぞご自由に!もう、早くどうにかしてよね!」

 そう言ってさとみは、俺に何かを渡した。
 蒟蒻(こんにゃく)──だった。

「……へ?蒟蒻?」
「そんなに大事なものなら、期限内で食べればよかったのに。前から『早く食べないと、そろそろ期限ヤバイ』って言ってるのに。期限切れてるからって捨てようとしたら、『消費期限じゃないから大丈夫だよ。俺が責任もって食べるから置いといて』って言って聞かないし。でももう、なんか色が変わってるからさすがに食べるの無理っぽいかな~って。だから『この蒟蒻、廃棄していい?』って聞いたの」
「蒟蒻……こんにゃく、こんやく……婚約?破棄……はき……はいき……廃棄?蒟蒻廃棄?婚約破棄??」
「なに、どうしたの?」



 数か月後。俺は婚約破棄されることなく、さとみと無事結婚することができました。


 

 終り。

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