荒廃した世界で、君と非道を歩む

廃墟

 昼になろうと部屋の中は薄暗い。昼夜逆転していたのは蘭だけではなく、志筑も同じく昼夜逆転した生活を送っているらしい。
 こんなちっぽけな共通点ですら喜びを感じる自分がいた。
 目が覚めたが起き上がる気にはなれず、薄っぺらい掛け布団に潜り込む。決して寝心地は良くない。コンクリート造りの床の上に直接布団を敷き、その上で寝ているのだから一晩で身体中に負担が掛かり痛みを感じた。
 ぼんやりと吹き抜けの窓の外を眺める。真っ白の太陽が鮮やかな青空に浮かんでいた。
 今日は珍しく昼過ぎに目が覚めた。普段なら熟睡している時間帯、だが一度開けた目は冴え切っていて、もう一度寝付くことはできなそうだ。

(本当に、泊まっちゃった……)

 恐らく、志筑は蘭をこの場に泊めるつもりなどなかっただろう。もしかしたら、すぐに追い出されていたかもしれない。
 だが、こうして今、彼が用意した布団の上にいるのは、昨晩蘭が口にした言葉が彼に届いた結果である。

────私、ここにいていい?────

 直接その問いに答えなかったのは彼が不器用だからか。理由は何であれ、志筑はこれから始める逃避行で何処か遠くに行くことを了承してくれた。
 今はそれだけが救いである。

「おい、そろそろ起きろよ」
「んー」

 部屋の外から志筑の気だるげな声が聞こえる。彼も今目覚めたらしい。
 寝起きで掠れた声を上げながら起き上がる。薄い布団の上で身体を伸ばし、長い欠伸を出した。
 志筑が与えてくれた布団と自分の家のベッドでは、後者の方が幾分もふかふかで寝心地はいい。だが、布団の厚さなど関係なく、志筑の家(勝手に住んでいる)というだけで落ちついて眠れた。
 布団から這い出てはだけた服を整えると、志筑がいるであろう扉の向こうへ行く。
 扉を開けて隣の部屋に入ると、志筑がソファの上でぼんやりと天井を見上げていた。

「おー、起きたか」
「うん……おはよ」
「んー」

 何だか気が抜ける声だ。昨晩の脅すような低く荒んだ声は何処へやら、今の志筑は魂が抜けたようである。
 ソファの前に回り込み、昨日よりも数センチ志筑の方に寄って腰を下ろした。

「お前さ、死に場所が欲しいとか言ってたよな。それって、何処でもいいのか?」
「うん、この街から離れられるなら、皆の記憶からいなくなるくらい遠くに行けるなら何処でもいい」
「そうか……。んじゃあ、とりあえずこの街から出るか」
「え?」

 突然のことに頭の理解が追いつかない。志筑の独り言のような呟きに、蘭は情けなくも呆けた声を上げた。

「え? って……てめぇが言ったんだろ、どっか遠くに行きたいって。俺も手伝うって言っちまったしよ。お前、宛あんのか?」
「いや、ない」

 蘭がそう答えると、志筑ははあと溜息を吐く。呆れ半分予想半分といった仕草を見せると、徐ろに立ち上がった。真っ直ぐと出入口の扉の方へ向かい、壁に掛けている蘭の緋色のパーカーと黒色のコートを手に取る。
 振り返ると、ソファに座っている蘭に乱暴にそれを投げた。中を舞うパーカーを慌てて掴み取る蘭の傍らで、志筑はコートを羽織る。

「ほら、早く行くぞ」
「え、ああ、うん!」

 志筑の背中を追って外に出ると、昨晩とは違い空はすっきり晴れていた。まだまだ肌寒い季節だが、高揚する気持ちが身体を彷彿とさせる。
 それがあまりにも心地良かった。
< 11 / 105 >

この作品をシェア

pagetop