荒廃した世界で、君と非道を歩む
 その表情を見た瞬間、蘭は呆気に取られて何も言えなくなった。自分の発言の何が、男の子にこのような表情をさせるのか理解できなかったのだ。

「き、嫌い……なのかも。でも、ほとんど顔を合わせることはないし……よく分からない」
「そればっかだな。お前、何がしたんだよ。なんで、生きているんだ」
「……なんで、生きているか? そんなの……生きるのに理由なんてあるの?」
「やりたいことをするため、夢を叶えるためとか、そういったのがお前にはないのかって聞いてる」
「ないよ。そんなのがあればこんな所にいない」

 そこではっと我に返る。失言だった。
 みるみるうちに男の子の表情が変わり、雲が掛かったように暗くなっていく。
 その表情の変化が見ていられなくて、また顔を逸らした。先程感じた居た堪れなさとは違う不安が蘭に襲いかかる。

「同じだな」

 しばし蘭を見つめていた男の子は、何を思ったのか一瞬小さな笑みを落とした。
 小さな笑い声が聞こえて顔を上げると、男の子は微かな笑みを浮かべて立ち上がる。
 ソファの背後に周り、吹き抜けの窓の前に立つと軽やかな身の熟しで窓枠に座った。三日月を背にして窓枠に座る男の子の髪が夜風にさらされて波を打つ。
 一つの大きな三日月と小さな二つの三日月が蘭の目の前に共存していた。

「夢も希望も何も無い。世界から見捨てられた者同士。俺達は社会不適合者だ」

 何故だろう。何故こんなにも心が満たされるんだ。
 視界が歪み出す。大粒の雫が目から溢れて、視界を歪めて頬を濡らしていく。
 拭っても拭っても次ら次へと涙が溢れ落ちてきて止まらない。三つの三日月が歪んで一つになる。
 自分は一生闇の中から救われることはないと思っていた。けれどそれは違ったのだ。自分は夢を持っていい、明日に希望を持っていいのだ。
 だってこんなにも美しい三日月に照らされているのだから。

「お前のことは、俺が守ってやる」

 首に掛けていたタオルを投げ捨て、ソファの肘置きに足を掛ける。
 窓枠に座る男の子は初めて見せる満面の笑みを見せた。その笑顔が何よりも輝いて見えて、目を瞑らないと焼かれそうなほどに眩しい。
 けれどずっと見ていたい。もっと傍に寄ってよく見たいと思った。
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