荒廃した世界で、君と非道を歩む
 二人の傍を一台のタクシーが通り過ぎる。こんな田舎町ではまともに電車もバスも通っていない。この町から別の街へ向かうには、少々無理をしてもタクシーを使わなくてはならないだろう。
 志筑は道端に立ち止まり、道路の先を見据える。蘭は突然立ち止まった志筑を不思議そうに見上げるが、志筑が蘭の方を見ることはなかった。
 それから約五分ほど。何も言わず道路の先を見つめていた志筑が突然手を上げた。
 蘭には彼が何をしているのかなど分かるはずもない。ただ、近づいてきたタクシー運転手に気づいてもらえるようにアピールをしていた。

「お二人ですか?」

 二人の前に停車したタクシーの窓から運転手が顔を覗かせた。運転手の皺の多い顔をくしゃくしゃにして笑う姿は、何だが妙に安心する。

「はい」

 志筑の短い返事を聞いた運転手は後部座席の扉を開ける。目配せをする志筑に従って、蘭はタクシーに乗り込んだ。
 隣に志筑が座り、運転手は扉を閉めると振り返る。

「どちらまで」
「隣街までいけますか。土地勘がないもので、もっと都会の方に行きたいのですが」
「行けんことはないですがぁ、結構な距離ですよ。大丈夫ですか?」
「大丈夫です。出してください」

 これ異常何も言うなという圧を醸し出す志筑を横目に、運転手は釈然としない様子で車を発進させた。
 新汰の車に乗った時とは違い、タクシーの中には会話など無い。静寂がエンジン音で掻き消されるだけの、退屈で居心地の悪い時間が続いた。
 窓の外を眺めながら蘭はふと考える。

 志筑はこの逃避行を終わらせようとしている。中途半端に終わらせるのではなく、蘭の望む死に場所へと向かっているのだ。

 未だ志筑が考えていることは分からないままである。このまま彼に付いて行って死に場所を見つけたとして、今の自分は素直に殺されたいと思えるのだろうか。
 何処かに、まだ志筑と二人で生きていたいと思っている自分がいる。そんな自分が残っている状態で、彼に殺してほしいなど言えるはずなどないだろう。
 どうすればいい。どうすればこの不安を取り除けるのだろう。
 まだ死にたくないから、死に場所を探すのはもう少し後にしようと言うのか。そんな事を言ってしまえば、志筑は自分に冷めて何処かに行ってしまうのではないか。
 言えない。そんなこと口が避けても言えない。

「安心しろ。お前が死にたいと思えるまで、俺は殺さねぇ」

 志筑は蘭の左手を握り、身体を寄せると小声でそう言った。恐らく運転手には聞こえていない。

「でも、もう終わらせようとしているんだよね。海と山、どっちが好きって聞いたのも、そのどちらかで終わらせようとしているのであって」

 心を読んだのか志筑は蘭の不安を的確に指摘してきた。蘭は何とも言えない蟠りを胸の奥に抱きながらも、普段の調子を崩さぬように取り繕う。
 志筑の無理矢理過ぎる質問は、旅の終着地点を決めるため。少なくとも蘭にはそう伝わっている。
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