荒廃した世界で、君と非道を歩む
 蘭に腕を引かれながらゲームセンターの中を練り歩く。周囲を忙しなく見渡し、無邪気に笑う蘭は純粋無垢な子供と何ら変わらない。
 端から見れば、何処にでもいる普通の女子高校生にしか見えないだろう。隣りにいる男が殺人鬼で、共に死に場所を探すとお飛行をしているなど誰が思うだろうか。

「ねえねえ、これ可愛くない?」

 蘭の目に入ったのは、小さな犬のマスコットであった。何かのアニメキャラクターのようだが蘭は知るはずもない。
 俗に言うブサカワという奴のようで、絶壁に近い鼻を睨みつけるような目つきが何とも唆られる。
 志筑が何かを言うよりも先に機械の前に立った蘭は、期待の眼差しを志筑に向けた。

「五回以内に取れなかったら諦めろよ」
「まかせろ! 一発で取ってやるから!」

 財布から取り出した百円玉を手渡すと、意気揚々と機械の中に投入した。操作バーをぎゅっと握り、真剣な眼差しを景品に向ける。
 一回目、遠近感覚が皆無。全く見当違いの場所にアームが落ち、景品に掠りもしない。
 二回目、少し遠近感覚が養われたのかアームの先が景品に触れた。しかし先が触れたバケでアームは空虚を掴む。
 三回目、折り返し地点に差し掛かり焦りが募る。今回はなんとか景品の胴体をアームが掴んだが、持ち上げると同時にすり抜けてしまう。こちらを見つめる犬の顔がなんとも腹立たしい。
 そして四回目、奇跡が起こった。

「お、おお!」

 貧弱だったアームが景品の胴体をがっしりと掴み上げ、落とし穴の上にまで移動する。蘭は期待と緊張に顔の前で手を組んだ。
 緊張の瞬間。目の前がスローモーションのように見え、ゆっくりとアームが開いていく。
 景品がアームから離れ、落とし穴の中に真っ直ぐと吸い込まれていった。蘭は慌てて景品を取り出す。

「ど、どうだ! 五回以内に取れたよ!」
「おー、良かったな」
「なんかテンション低くない? それなら志筑も五回以内に取って見せてよ」
「ああ、やってやらぁ」

 百円玉を握りしめた志筑は蘭と立場を交代し、機械の前に立ってお金を投入口に入れる。操作バーを握った志筑は迷いなくアームを動かしていく。
 蘭は不服であった。自身は四回目でようやく景品を取れたというのに、志筑が操作するアームは正確に景品を捉えたのだ。
 景品を掴んだアームは滑らかな動きで落とし穴の上で止まると、そのまま景品を落とす。

「ん、一発」
「……なんか負けた気分」
「初めてだったらそんなもんだろ。むしろ上出来な方じゃね」
「志筑はやったことあるの?」
「いや、初めて」

 蘭は不服であった。
 当初の予定通り、互いが手に入れた景品を交換する。蘭は白い毛の犬、志筑は黒い毛の犬を手に入れた。
 二人は互いのマスコットを見比べ、同じくふてくされた犬の表情を見て笑みを落とした。
< 75 / 105 >

この作品をシェア

pagetop