荒廃した世界で、君と非道を歩む
 それだけは絶対に許せない。蘭の願いを叶えるために、自分自身の存在証明をするために逃避行を始めたのに、こんな場所で無惨にも捕まってはいられなかった。
 だから二人は逃げる。世界の誰からも見捨てられた二人は、たった二人だけになれる場所を求めて逃げるのだ。
 たとえ誰にも理解されなくても、誰からも祝福されなくても、二人は二人で最期を迎えることを望む。
 それが二人にとって、何よりも喜ばしく最も幸福な結末なのだ。

「ど、どうしたの志筑? 何から逃げてるの? 何処に行くの?」
「警察だよ。俺等がここにいることがバレた。とにかく遠くに行くしか無い」
「で、でも、見つかったら……」
「見つからないために逃げんだよ! 俺等は誰からも干渉されないために、何処か遠くで死に場所を探す。違うか?」

 エスカレーターを駆け下り、大きな吹き抜けの中央広場を抜けると、二人はショッピングモールを飛び出した。
 大通りを人を掻き分けながら走る。走って、走って、走って。ようやく辿り着いたのは、地下鉄の改札口だった。

「はあ、はあ、速いよ……。ねえ、このまま何処に行く気? 逃げ切るつもりなの?」
「ど、どうするもこうするも……。とにかく、遠くへ行かねぇと」
「……もしかして、焦ってる?」
「…………焦るに、決まってんだろ」

 切符を買うために券売機を操作する指先が尋常ではないほどに震えている。志筑がここまで動揺しているところなど蘭は見たことがなかった。
 だからだろうか、やけに蘭は冷静だった。動揺を露わにしている人を目の当たりにして別れるのは、共に動揺する人と逆に冷静になる人の二択だろう。この時の蘭は後者であった。

「貸して」

 志筑の手から小銭を奪い取り、券売機を操作して切符を買う。やけに慣れた手つきで操作する蘭を見て、志筑はぽかんと口を開けていた。
 かつては切符の買い方は愚か、電車にすら乗ったことのなかった少女が今では一人で切符を買っている。
 彼女よりもよっぽど大人であるはずの志筑よりも蘭のほうが冷静である現状に、少しづつ志筑の頭は冷やされていった。

「はい。ほら、早く行かないと追いつかれちゃう」
「あ、ああ。そうだな」

 ようやく正気を取り戻した志筑は蘭から切符を受け取り、改札口へと向かう。人気のない改札口を抜ける前に志筑は一度振り返った。
 背後には誰もいない。ショッピングモールで見たあの刑事はまだ追って来ていないようだ。
 少しばかり緊張が解れ、切符を改札口に通すと一足先に改札を抜けていた蘭の元に駆け寄った。
< 80 / 105 >

この作品をシェア

pagetop